JOURNAL ・ 撮影地の記録
雨引観音の水中華 ― 水に浮かぶ紫陽花と、池に遊ぶアヒル
茨城・桜川。雨引山のふところに抱かれた古いお寺の境内に、初夏のあいだだけあらわれる景色があります。手水鉢や弁天池の水面に、青や紫、淡い桃色の紫陽花がそっと浮かべられ、まるで水そのものが花を咲かせたよう。地元で「水中華(すいちゅうか)」と呼ばれるこの情景を、私は梅雨の合間に訪ねました。
水に咲く、もうひとつの紫陽花
剪定された紫陽花の花を水に浮かべる――ただそれだけのことなのに、水面に映る空と、ゆっくりと寄り集まり、また離れていく花々の動きが、いつまでも見飽きません。陸に咲く紫陽花は雨に濡れて重たげにうつむきますが、水に放たれた花は軽やかで、自由です。役目を終えたはずの切り花が、水の上でもう一度いのちを得たかのように見える。その静かな再生の景色に、こちらの胸まで澄んでいくような心地がしました。色とりどりの花が水の青に溶け合い、見ているうちに、どこからが花でどこからが水か、わからなくなっていきます。
アヒルの遊ぶ、のどかな弁天池
水中華の浮かぶ池では、アヒルやカモがのんびりと水をかいています。花のあいだをすうっと進んでいっては、ときどき思い出したように羽づくろいをする。その無心な姿に、見ているこちらの時間までゆるんでいくようでした。普段の私は、一刻を争う救急の現場で、秒針に追われるように過ごしています。だからこそ、雨上がりの境内に立ち、花と水鳥がつくる「急がない時間」に身を置くと、張りつめていた何かがほどけていく。梅雨の灰色の空さえ、この池の前ではやわらかな光に変わるのです。
水の上で、花がもう一度ひらく。
そのまわりを、アヒルが静かに横切っていく。
訪れる方へ ― 見頃
いちばん美しい季節を、少しだけ。
雨引観音の紫陽花は、例年6月上旬から7月中旬ごろが見頃です。境内にはおよそ100種・5,000株ともいわれる紫陽花が植えられ、初夏には「あじさい祭」が開かれます。名物の水中華は祭の期間中の一定期間に手水鉢や弁天池を彩り、あわせて夜のライトアップが行われる年もあります。開花は天候によって前後しますので、出かける前に最新の状況を確かめておくと安心です。
アクセス
最寄りはJR水戸線の岩瀬駅で、駅前からタクシーでおよそ15分ほどです。お車の場合は北関東自動車道の桜川筑西インターから10分前後で、境内のふもとには無料の駐車場が広く用意されています。あじさい祭の時期は道や駐車場が混み合いますので、午前の早い時間に着くようにすると、ゆっくりと巡れます。
撮影のヒント
水中華は、真上に近い角度から見下ろすと花の輪が画面いっぱいに広がり、水の青を背景にした抽象画のような一枚になります。逆に水面すれすれまでカメラを低く構えれば、浮かぶ花とアヒルを同じ高さでとらえられ、物語が生まれます。狙い目はやはり雨の日や雨上がり。空がやわらかく曇ると照り返しが消え、花本来の色が深く沈んで写ります。アヒルは動きますから、少し速めのシャッターで待ち構え、花とのあいだが整う一瞬を辛抱強く待ちましょう。
あわせて巡りたい
雨引観音は安産・子育ての祈願や、桜の名所としても知られ、春には三千本ともいわれる桜が山を彩ります。足をのばせば、万葉の昔から歌に詠まれてきた筑波山がそびえ、ロープウェイやケーブルカーで気軽に山頂へ。桜川市のまちなかには真壁の古い町並みも残り、紫陽花と石蔵をめぐる一日は、初夏の北関東をゆっくり味わう小さな旅になります。
雨引観音の水中華を、FUJICOLOR最高級印画紙への銀塩プリントでお届けします。深い色合いと豊かな階調をそのままに、額装にも耐える一枚を世界各国へ発送いたします。
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