JOURNAL ・ 撮影地の記録
あたみ桜の日の出 ― 日本一早く、春をはじめる桜
静岡・熱海。まだ多くの桜が固いつぼみで眠っている真冬に、ひとあし早く春をはじめる花があります。糸川沿いの遊歩道を彩る「あたみ桜」。日本でいちばん早く咲くといわれる、濃いピンクの早咲き桜です。一月の冷たい朝、その花が日の出の光をすいこんで、ゆっくりとあたたかな色に変わっていきました。
まだ眠る冬に、ひとあし早く咲く
海からのぼった朝日が、川面に細い金色の道をひいたころ。糸川のほとりに並ぶあたみ桜が、いっせいに色をともしました。あたりの木々がまだ葉を落としたままの真冬に、この桜だけが濃いピンクの花をいっぱいに開いている。その対比が、見ている私の心をふっとほどいてくれます。冷たい空気のなかで、それでも春は、もうここまで来ている。寒さに身をすくめながら見上げると、花のひとつひとつが小さな灯りのように見えました。日本一早く咲く、という言葉が大げさでないことを、その朝のあたみ桜は静かに教えてくれます。
光が花にとどく、その一瞬
この一枚は、夜明けの光が花びらの内側まで届いた、ほんの数分のあいだに撮ったものです。日が高くなれば、ピンクはただの明るい色になってしまう。けれど低い朝の光のなかでは、花がうちがわから発光しているように見えるのです。ありがたいことに、この写真はフォトコンテストで賞をいただきました。けれど私が覚えているのは、賞そのものよりも、夜勤を終えた体で三脚を立て、息を白くしながらシャッターのタイミングを待った、あの静かな時間のほうです。救急の現場は一秒を争う場所ですが、この朝は、ただ光が満ちるのを待っていればよかった。その静けさが、なによりのごほうびでした。
真冬の朝に、ひとつぶの春がともる。
日本でいちばん早い、桜の灯り。
訪れる方へ ― 見頃
あたみ桜は、長く楽しめる桜です。
あたみ桜が見頃を迎えるのは、例年1月下旬から2月上旬ごろ。ソメイヨシノよりずっと早く、真冬に咲くのが最大の特徴です。同じ枝に早く咲く花芽とおそく咲く花芽が二段構えにつくため、ひと月以上にわたって花を楽しめるといわれています。糸川沿いの遊歩道にはおよそ五十数本のあたみ桜が植えられ、見頃に合わせて「糸川桜まつり」が開かれます。例年は一月中旬から二月上旬ごろの開催で、夕方からはライトアップも行われ、昼とはちがう艶やかな表情を見せてくれます。気候により開花は前後しますので、出かける前に最新の開花状況をご確認ください。
アクセス
糸川遊歩道は、JR熱海駅から歩いて向かえます。駅前の商店街を抜けてゆるやかな坂を下り、徒歩でおよそ十分ほど。坂道に不安のある方は、駅前のバス乗り場から路線バスに乗り、「銀座」バス停で降りればすぐ目の前です。遊歩道そのものは無料で、いつでも歩くことができます。専用の駐車場はありませんので、お車の場合は近くの市営駐車場を利用すると便利です。日の出を狙うなら、暗いうちに到着して場所を決め、空が白んでくるのを待つのがおすすめです。
撮影のヒント
ねらい目は、太陽が水平線から顔を出して間もない、低い光の時間帯です。花の背後から、あるいは斜めから光を受けるように立つと、花びらが透けて発光したように写ります。あたみ桜は色がとても濃いので、露出はやや控えめにして、ピンクが白く飛ばないように気をつけてください。川面や遊歩道の手すりを前景に入れると、奥行きが生まれます。風のない朝なら、川にうつる花の影もそっと一枚に加えてみてください。光は刻一刻と変わります。一番きれいな数分を逃さないよう、構図はあらかじめ決めておくとよいでしょう。
あわせて巡りたい
あたみ桜の見頃は、ちょうど熱海梅園の梅まつりとも重なります。樹齢を重ねた梅の古木が数百本咲きそろう園内は、足湯もあって、冷えた体をあたためながらゆっくり過ごせます。早咲きの桜と梅を一日で巡れるのは、真冬の熱海ならではの贅沢です。温泉でしっかりあたたまり、海の幸を味わえば、ひとあし早い春を心ゆくまで楽しめます。撮影のあとは、ぜひ熱海の町歩きもどうぞ。