JOURNAL ・ 撮影地の記録
千鳥ヶ淵の夜桜 ― 雨の夜に灯る、お堀の桜
東京・千代田。高層ビルと官庁街にほど近いその場所に、春のあいだだけ、別の時間が流れる一画があります。皇居の西を縁取る千鳥ヶ淵。お堀沿いの遊歩道を、頭上まで届くソメイヨシノが覆いつくします。とりわけ雨の降る夜、ライトアップされた桜は黒い水面に静かに沈み、もうひとつの花の景色をつくります。
水鏡に咲く、もう一本の桜
晴れた昼の千鳥ヶ淵もうつくしいけれど、私が心を奪われるのは、雨の降る夜です。ライトに照らされた花びらは雨を吸って色を深め、枝先からしずくがお堀へと落ちていきます。風のない晩には、水面が一枚の鏡になります。岸に咲く桜と、水にうつる桜。上と下にひろがる二本の花を前にすると、どちらが本物なのか、ふいに分からなくなる瞬間があります。傘を打つ雨の音だけが、ここが現実なのだと教えてくれます。
灯りのにじむ夜のお堀で
日が落ちると、緑道の桜並木に明かりが入ります。お堀のほとりにはボート乗り場の灯りがともり、雨に濡れたレンズの向こうで、その光はやわらかくにじんで広がります。すぐ背後には都心の喧騒があるのに、お堀のふちに立つと、不思議なほど音が遠ざかる。当直の長い夜を抜けてここへ来ると、張りつめていたものがゆっくりほどけていくのを感じます。花を眺める時間というのは、それ自体がささやかな手当てなのかもしれません。
岸に一本、水にもう一本。
雨の夜だけにひらく、二本の桜。
訪れる方へ ― 見頃
いちばん知りたい、季節と灯りのこと。
ソメイヨシノの見頃は例年3月下旬から4月上旬ごろ。お堀沿いの「千代田のさくらまつり」の期間中には、千鳥ヶ淵緑道の桜並木がライトアップされ、夜桜を楽しめます。点灯はおよそ日没後から夜21時ごろまで。都内でも指折りの名所だけに、見頃の週末はたいへん混み合い、緑道は一方通行になることもあります。開花や点灯の日程は年によって前後しますので、最新情報は必ず公式でご確認ください。雨上がりや小雨の平日の夜は、比較的しっとりと向き合えます。
アクセス
最寄りは東京メトロと都営地下鉄の九段下駅で、出口からお堀沿いの緑道入口まで徒歩5分ほど。半蔵門線の半蔵門駅からも徒歩5分ほどで、こちらは英国大使館側から千鳥ヶ淵へ入れます。いずれも複数の路線が乗り入れる便利な駅です。夜のライトアップや雨の日は足元が暗く滑りやすいので、歩きやすい靴でお出かけください。
撮影のヒント
雨の夜は、千鳥ヶ淵がもっとも表情ゆたかになる時間です。狙いは水面のリフレクション。風のない瞬間を待ち、お堀の縁から低く構えると、桜と灯りがきれいに映り込みます。暗いので三脚は必須。数秒の長秒露光で、雨に濡れた花びらと、にじむボート乗り場の光をやわらかく描き出せます。ライトアップの色に露出を合わせ、わずかにアンダー気味にすると、夜の深みが残ります。傘とレンズを拭く布を忘れずに。
あわせて巡りたい
千鳥ヶ淵の周辺には、桜の見どころが集まっています。すぐ北の靖国神社は東京の桜の標本木がある古社で、参道の桜も見事です。お堀をはさんで広がる北の丸公園にも数百本の桜があり、昼の散策にぴったり。皇居外周をぐるりと歩けば、お堀ごしに移ろう春の景色を一日かけて楽しめます。
水面に映る、もう一本の桜。その静かな情景を、FUJICOLOR最高級印画紙への銀塩プリントでお届けします。額装してお部屋に飾れば、雨の夜のしっとりとした空気がよみがえります。世界中へ発送可能です。
作品を見る →