JOURNAL ・ 撮影地の記録
偕楽園の紅白梅 ― 日本三名園に咲く、早春のしらせ
茨城・水戸。まだ風の冷たい二月、いちはやく春を告げる花があります。日本三名園のひとつ、偕楽園。約100品種3000本の梅が、紅に、白に、淡い桃色にと枝をひらき、園内をやわらかな香りで満たします。雪を待つには遅く、桜を待つには早い。その狭間の季節にだけ、ここは静かに色づきます。
香りが、先に春を連れてくる
梅の見頃は、視覚よりさきに嗅覚で訪れます。園の入口をくぐると、まだ目が花を探しているうちから、甘く澄んだ香りが鼻先に届く。立ち止まって振り返ると、灰色の枝のあちこちに、紅白の小さな灯がともっているのに気づきます。桜のように一斉に咲いて散る花ではなく、早咲きから遅咲きまで品種ごとに時をずらして咲くため、二月の半ばから三月の終わりまで、長く花を楽しめるのが偕楽園の梅の懐の深さです。冷たい空気のなかでこそ、その香りはいっそう鮮明に立ちのぼります。
名園を、すべての人にひらいた藩主
偕楽園は、水戸藩主・徳川斉昭が天保のはじめに構想し、一八四二年に開いた庭園です。園の名は「衆と偕(とも)に楽しむ」という願いに由来します。藩主だけの庭ではなく、領内の人々がともに憩える場として梅を数千本植えた――その思想が、百八十年を越えていまも受け継がれています。私は救急の現場で、刻一刻と過ぎる時間に追われて働きます。けれど梅の咲くこの園では、時間はゆっくりと、季節の歩幅で流れていく。早春の張りつめた空気のなか、人より先に咲くと決めた花の潔さに、ふと背筋が伸びる思いがします。
まだ寒い枝の先に、紅白のあかりがひとつ。
春は、ここから始まる。
訪れる方へ ― 見頃
梅は、長い季節をかけて、ゆっくりと咲きすすみます。
梅の見頃は例年おおよそ二月中旬から三月中旬。品種により早咲き・中咲き・遅咲きがあるため、二月から三月いっぱいまで、訪れるたびに違う花を楽しめます。この時期には「水戸の梅まつり」が偕楽園と弘道館を会場に開かれ、夜間のライトアップなどさまざまな催しが行われます。本園の入園料は大人およそ三百円ほどで、まつり期間中は臨時の催事や開園時間の変更もあります。日程や料金は年により変わりますので、最新情報は偕楽園の公式サイトでご確認ください。
アクセス
JR常磐線・水戸駅が玄関口です。北口のバスのりばから偕楽園方面行きのバスに乗り、およそ二十分。梅まつりの期間中は、園のすぐそばにJRの臨時駅「偕楽園駅」が開設される年もあり、電車でそのまま降り立つことができます。東京方面からは特急で水戸駅まで一時間半ほど。早春の一日を旅するのにちょうどよい距離です。
撮影のヒント
梅は逆光に映える花です。朝のやわらかな斜光や、夕方の傾いた光に透かすと、花びらが内側から灯ったように輝きます。紅梅と白梅をひとつの画面に収めるなら、両者のあいだに少し距離を置き、白を背景に紅を浮かび上がらせると対比が際立ちます。一輪に寄って枝の線を生かす構図も、林全体を遠景でとらえる構図も、どちらも偕楽園らしい。香りまで写し取るつもりで、花に近づいてみてください。
あわせて巡りたい
園内の高台に建つ好文亭は、斉昭みずから設計に関わった木造の建物で、三階の楽寿楼からは梅林と千波湖を一望できます。眼下にひろがる千波湖は、もともと斉昭がこの地に園を築いた理由のひとつともいわれる借景の湖。梅を見たあとは湖畔をゆっくり歩き、水面に映る早春の空をながめるのもおすすめです。