JOURNAL ・ 撮影地の記録
丸の内の東京タワー夕景 ― ビルの谷間に灯る、茜色の塔
東京・丸の内。日本でいちばん洗練された街並みの、その向こう。高層ビルがつくる深い谷の奥に、ぽつんと一本、見慣れた塔が立っています。昼のあいだは灰色のビル群に溶けていたその姿が、陽が傾くにつれて少しずつ輪郭を取りもどし、空が色を変えるころ、ふいに、あたたかなオレンジの灯りをまといます。
ビルの谷間に立つ、一本の塔
丸ビルやKITTEの屋上テラスに立つと、まず目を奪われるのは、整然と連なる高層ビルの量感です。ガラスと石の壁が幾重にも重なり、まるで人の手でつくった峡谷のよう。その谷の、いちばん奥。ビルとビルのわずかな隙間に、東京タワーがすっと立っています。望遠レンズでのぞくと、手前のビル群と塔とがぐっと引き寄せられ、近代と昭和、垂直の線と優美な曲線が、一枚のなかで静かに同居します。昼間はあくまで都市の一部だったその塔が、夕方が近づくにつれ、画面の主役へと変わっていく。その移ろいを待つ時間が、私はとても好きです。
マジックアワーから、夜へ
日が沈むと、空はめまぐるしく表情を変えます。地平に近いところは茜色に燃え、頭上はゆっくりと藍へ、やがて紺へ。日没から二十分ほどあとに訪れる薄暮の時間は、世界がいちばん豊かな色を見せる、ほんの三十分ほどの魔法です。その合図を待っていたかのように、東京タワーにオレンジの灯がともります。秋から春にかけてのランドマークライトは、あたたかなナトリウム灯の橙色。冷たくなりはじめた空気のなかで、その一点だけが、ほっとするような温度をたたえています。夜勤の晩、救急の窓からこの灯りを遠くに見つけると、街がまだ眠らずにいてくれる――そんな心強さを覚えたものでした。塔の灯は、誰かの夜を見守る、小さな灯台のようにも思えます。
ビルの谷の、いちばん奥に灯る一点。
茜から紺へ、街がいちばん美しい三十分。
訪れる方へ ― 見頃
丸の内のよいところは、特別な展望台に上らずとも、無料で開放された屋上テラスから、この夕景に出会えることです。
おすすめは、空気の澄む秋から冬。湿度が下がると遠くまで見通しがきき、塔の輪郭がくっきりと立ち上がります。この季節、東京タワーのライトアップはあたたかなオレンジ色にもなり、夕景との相性も格別です。時間帯は、日没の三十分ほど前に着いて、空がまだ明るいうちから場所を決めておくのが安心。茜の残照と、点灯したばかりの塔の灯が重なるわずかなひとときを、ぜひ逃さずに。代表的な展望スポットとしては、丸ビルの上層階や屋外テラス、KITTEの屋上庭園「KITTEガーデン」などが知られています。いずれも開放時間が季節や曜日で変わり、天候により閉鎖される場合もあるので、最新情報は各施設でご確認ください。
アクセス
起点はJR・東京メトロの東京駅です。丸の内口(丸の内南口・中央口など)を出れば、丸ビルもKITTEもすぐ目の前。地下道で各施設に直結しているため、雨の日でもほとんど濡れずにたどり着けます。東京メトロ千代田線の二重橋前駅からも歩いてすぐです。新幹線や各路線が集まる東京駅は全国からのアクセスがよく、夕方の数時間だけ立ち寄る、という旅程も組みやすい場所。仕事帰りに少し足をのばす、という気軽さも、この夕景の魅力のひとつです。
撮影のヒント
夕景は、明暗の差がとても大きい被写体です。明るい空に露出を合わせると地上のビルが沈み、ビルに合わせると空が白く飛んでしまう。空がまだ少し明るい薄暮のうちに撮りはじめると、両者のバランスがとりやすくなります。レンズは中望遠から望遠が活躍します。焦点距離を伸ばすほど手前のビルと東京タワーが圧縮され、谷間に塔がぎゅっと立つ、あの密度のある画になります。日没後はシャッター速度が落ちるので、可能なら小型の三脚があると安心ですが、屋上テラスでは三脚・一脚が使えない場所も少なくありません。手すりにそっとカメラを預けて固定する、ISO感度を上げる、手ブレ補正を活かす、といった工夫で十分に撮れます。屋内のガラス越しに撮る場合は、レンズをできるだけガラスに近づけ、黒い布やレンズフードで室内の映り込みを抑えると、反射のないクリアな一枚になります。
あわせて巡りたい
丸の内は、歩くだけで絵になる街です。赤レンガの東京駅丸の内駅舎は、夜になると琥珀色にライトアップされ、こちらもまた格好の被写体。駅前から皇居外苑へと続く行幸通りの並木道、ガラスに夕空を映す丸の内仲通りのビル群、和田倉噴水公園の水辺など、夕景の前後に立ち寄れる場所には事欠きません。さらに足をのばせば、東京タワーそのものの足もとへ。遠くから望んだあの塔の真下に立つと、見上げる迫力にまた別の感慨があります。一日の終わりに、街の灯がひとつ、またひとつとともっていく――その時間を、どうぞゆっくりと味わってください。
丸の内のマジックアワーに出会った東京タワーの夕景を、FUJICOLOR最高級印画紙への銀塩プリントでお届けします。一点一点ていねいに仕上げ、世界各国へ発送いたします。
作品を見る →