JOURNAL ・ 撮影地の記録
明月院の紫陽花 ― 雨に深まる、明月院ブルー
神奈川・北鎌倉。山あいの小さな谷戸に、梅雨の季節だけ青がいっせいに灯る寺があります。明月院、人びとが「あじさい寺」と呼ぶ場所です。約2500株のヒメアジサイが参道を埋め、雨の灰色の空の下で、境内はまるごと澄んだ青に沈んでいきます。その色を、いつしか人は明月院ブルーと呼ぶようになりました。
明月院ブルーという、ひとつの青
明月院の青は、不思議と心をしずめてくれます。空の青でも海の青でもない、すこし灰色を含んだ、雨上がりの空気のような青。ヒメアジサイという品種は花が小ぶりで、株がそろうと色がよく澄み、谷戸の地味と水とがその青をいっそう深く育てます。参道を上がるにつれ、足もとから視界の奥まで、青がやわらかく満ちていく。派手に咲き誇るのではなく、静かに、けれど確かに、境内ぜんたいをひとつの色に染めていく。その慎ましさにこそ、人は惹かれるのだと思います。立ちどまって息を整えると、自分の内側まで、すこしだけ青く澄んでいくようでした。
雨の日こそ、いちばん美しい
晴れた日もよいのですが、明月院の紫陽花がほんとうに息づくのは、やはり雨の日です。葉に水玉がのり、花がしっとりと濡れ、青はいちだんと深くなります。本堂の丸窓「悟りの窓」から庭を望めば、まるい光のなかに青がにじみ、時間がゆっくりとほどけていく。救急の現場で秒を争う日々を送る私にとって、雨音だけが響くこの境内は、時計の針がふいに止まったかのような場所でした。傘を打つ雨の音さえ、ここでは静けさの一部になります。
雨の灰色のなかで、青がいちばん深くなる。
明月院ブルーは、しずけさの色。
訪れる方へ ― 見頃
いちばん美しい季節を、すこしだけ。
見頃は例年6月上旬から下旬、なかでも中旬から下旬にかけてが青のピークです。梅雨の天気しだいで前後しますので、お出かけ前に最新の開花状況をご確認ください。あじさいの時期はたいへん混み合い、休日の朝は北鎌倉駅まで行列が伸びることもあります。比較的ゆっくり楽しむなら、平日の開門直後か、夕方の閉門前がおすすめです。6月は拝観時間がふだんより早まり、拝観料も特別期間として変わる場合があります。料金や時間は年により異なりますので、最新は明月院の公式情報でお確かめください。
アクセス
JR横須賀線「北鎌倉駅」から、線路沿いの道を歩いておよそ10分。駅を出てそのまま鎌倉方面へ進むと、左手に明月院の参道が見えてきます。北鎌倉はもともと寺の多い静かな里で、駅から門までの道のりそのものが、初夏の散歩としてとても気持ちのよい時間です。あじさいの時期は人出が多いので、できれば朝早い時間に着くよう、ゆとりをもってお出かけください。
撮影のヒント
明月院ブルーを引き出すなら、晴天よりも曇りや小雨の日を選んでください。やわらかな光のほうが青が澄み、白とびもしにくくなります。撮るときは露出をほんのわずか下げ気味にすると、青が落ち着いて深く写ります。雨の日は葉先の水滴や、花にのった雫を主役にすると、しっとりとした空気感が伝わります。参道の階段を生かして青の重なりを奥行きとして写すのもおすすめ。丸窓「悟りの窓」を狙うなら、列が短い開門直後の時間が落ち着いて構えられます。傘やレンズの水滴対策も忘れずに。
あわせて巡りたい
北鎌倉は、歩いて巡れる名刹がそろう里です。明月院のすぐ近くには、堂々たる伽藍を構える円覚寺、縁切り寺として知られ花の美しい東慶寺、紫陽花の名所として人気の長谷寺へも足をのばせます。線路沿いの道をたどり、寺から寺へと初夏の鎌倉をゆっくり歩く一日は、それ自体が忘れがたい記憶になるはずです。