JOURNAL ・ 撮影地の記録
桃色吐息 ― 丘いっぱいに、夏のため息
千葉・富津、鹿野山の高原。なだらかな丘の斜面が、まるごと淡い桃色のため息に染まる季節があります。マザー牧場「花の谷」の「桃色吐息」。風にゆれる無数のペチュニアが、夏のやわらかな色を、東京湾を見下ろす丘いっぱいに広げていきます。
丘いっぱいに咲く、淡い桃色
その丘に立ったとき、思わず息がもれました。斜面を覆いつくしているのは、桃色というには淡く、白というには色づいた、名前のとおりの「吐息」のような花でした。ペチュニアの新品種「桃色吐息」。南房総生まれのこの花が、約2万株、丘の起伏に沿ってどこまでも続いています。近づけば一輪ずつ、離れれば一面のグラデーション。風がわたるたびに、丘全体がやさしく波打って見えました。
高原の風と、急がない時間
マザー牧場は、東京湾を見下ろす標高の高い高原にあります。海からの風が抜ける斜面に、桃色の花畑がふわりと広がる。その眺めの開けかたが、ここならではの心地よさでした。私はふだん、救急の現場で時間と競うように働いています。一刻を争う夜が明けて、こうして丘の上に立つと、時間の流れがまるで違うことに驚きます。花は、急がない。ただ風にまかせて、静かに色を深めていく。その時間に身を置くだけで、強ばっていた肩から、ゆっくり力が抜けていくのを感じました。
丘の斜面いっぱいに、桃色のため息。
風がわたるたび、夏がやさしく波打つ。
訪れる方へ ― 見頃
美しい花畑にも、いちばん良い季節があります。
「桃色吐息」の見頃は、例年7月から9月ごろ。とくに8月上旬になると、株と株のすきまも見えなくなり、丘がまるで桃色の絨毯のように埋めつくされます。入場料は、おとな(中学生以上)が1,800円ほど、こども(4歳〜小学6年生)が900円ほどが目安です(最新は公式でご確認ください)。なお桃色吐息は、夜や雨の日に花びらを閉じて身を守る性質があるため、よく晴れた日の日中がいちばん見ごたえがあります。
アクセス
電車の場合は、JR内房線の佐貫町駅、または君津駅からバスが便利です。君津駅南口から「マザー牧場」行きのバスでおよそ30〜40分、佐貫町駅からは鹿野山線でおよそ25分ほど。お車なら、館山自動車道の君津インターチェンジから約20分です。バスは本数がかぎられていますので、お出かけ前に時刻表をご確認ください。
撮影のヒント
この丘は、光の高さで表情が大きく変わります。朝のやわらかな斜光は、桃色を透きとおらせ、一輪ずつの花びらに息を吹き込みます。丘の起伏を生かすなら、斜面を横から、または下から見上げる角度がおすすめです。背景に夏空や東京湾の遠景を入れると、高原ならではの開放感が一枚に宿ります。風で花が波打つ瞬間は、少しだけシャッターを待つと、画面全体に静かな動きが生まれます。淡い色なので、露出はわずかに明るめに振ると、あの「ため息」の質感に近づきます。白い空の日でも、淡い桃色はやわらかく階調を保ってくれるので、曇りの日のロケにもよく似合います。
あわせて巡りたい
マザー牧場は、ひつじやアルパカとふれあえる広い場内そのものが一日がかりの楽しみです。花畑のあとは、しぼりたての牛乳やソフトクリームでひと休みを。少し足をのばせば、鋸山(のこぎりやま)の山頂からの東京湾の眺めや、富津岬の夕景もすぐ近くです。房総の海と高原を、桃色の記憶とともにゆっくり巡ってみてください。花の見頃は梅雨から夏にかけてのひととき。天気とにらめっこしながら、晴れ間を狙って訪ねるのも、この季節ならではの楽しみのひとつです。