JOURNAL ・ 撮影地の記録
ネモフィラの花径 ― 昭和記念公園、春の青い小道
東京・立川。広い原っぱのへりを、淡い水色がひとすじ横切っていく季節があります。ネモフィラです。丘ひとつを染めるような景色ではありません。けれど都会のまんなかに、こんなにやわらかな青の小道が引かれていることに、はっと足がとまります。空がそのまま、地面に落ちてきたような色でした。
空がこぼれた、青い帯
しゃがんで近づくと、花のひとつひとつがとても小さいことに気づきます。五枚の花びらに、薄い青のすじが走り、中心はほんのり白い。ひとつでは頼りないほどの花が、何万と寄り集まって、はじめて水色の帯になります。風が渡ると、帯はいっせいに身をかしげ、また起き上がる。その呼吸のような揺れのあいだに、青い小道がふっと深くなったり、淡くなったりします。レンズを地面すれすれまで下げると、花の高さに視線がそろい、青がそのまま向こうの空までつながって見えました。
原色のとなりの、淡い青
少し顔を上げれば、同じ春のなかにチューリップの赤や黄が並び、頭上には桜が残っていることもあります。原色の華やかさと、ネモフィラの淡い青が、ひとつの公園のなかで隣り合っている。都市の公園ならではの、ぜいたくな取り合わせです。私はふだん、救急の現場で時間に追われて過ごしています。色を見分ける余裕などない時間の連続です。だからこそ、この青のまえに立つと、時間がほどけていくのがわかります。花は急がない。ただ春のぶんだけ咲いて、風にこたえているだけ。その静けさに、こちらの呼吸がゆっくり合っていきます。
原っぱのへりに、空の色がこぼれている。
風がくるたび、青い小道が深くなる。
訪れる方へ ― 見頃
この公園のネモフィラは、みんなの原っぱの一角、西花畑におよそ二十万本が植えられています。
見頃は例年おおよそ四月中旬から下旬ごろ。年によっては五月の半ばまで楽しめることもありますが、開花は気候に左右されますので、最新は公式の開花情報でお確かめください。同じころ、渓流広場やチューリップガーデンではチューリップが、園内の各所では桜が春を彩ります。入園には料金がかかります。大人はおよそ四百五十円ほど(最新は公式で)。淡い青の帯を歩くなら、人出のやわらぐ平日の午前が、いちばん静かな時間です。
アクセス
最寄りはJR青梅線の西立川駅です。改札を出てすぐの西立川ゲートが、原っぱの花畑にいちばん近い入口になります。駅からゲートまでは徒歩で数分ほど。立川駅からも歩いて向かえますが、ネモフィラを目当てにするなら西立川駅から入るのが近道です。お車の場合は西立川口の駐車場が花畑に最も近く、見頃の週末は混み合いますので、開園の時間に合わせて早めに着くことをおすすめします。
撮影のヒント
ネモフィラは一輪では小さく、群れてはじめて青の帯になります。まずはレンズを地面ぎりぎりまで下げてみてください。花の高さに目線をそろえると、青がそのまま奥へ流れ、小道が長く深く見えます。順光では花の色がいちばん澄んで写りますが、午後のやわらかな斜光を背に受けると、花びらが透けて青が発光するように見える瞬間があります。風のある日は、揺れを止めずに少しだけ流すのも一案です。チューリップや桜を画面の端にそっと入れると、ここが春の都市公園であることが、一枚のなかに静かに語られます。
あわせて巡りたい
昭和記念公園はとても広く、一日では巡りきれないほどの見どころがあります。ネモフィラの原っぱから足をのばせば、季節ごとに表情を変える日本庭園や、水のきらめく渓流広場が待っています。春の盛りには、園内全体がフラワーフェスティバルの彩りに包まれます。歩き疲れたら、ネモフィラ色のソフトクリームでひと休みするのもこの公園ならでは。立川の街なかにも近いので、帰りに駅前で食事を楽しんで一日を締めくくることができます。