JOURNAL ・ 撮影地の記録
東尋坊の断崖 ― 日本海が刻んだ、柱状節理の絶壁
福井・坂井。日本海に向かって、灰色の岩が壁のように切り立つ場所があります。東尋坊。波がほどけては砕け、足もとから低い音が響いてきます。柱のように割れた岩肌が、まっすぐ海へと落ちていく。人がつくったのではない、ただ長い時間だけがつくれた風景が、静かにそこにありました。
波が、岩を彫っていく
東尋坊の岩は、ふしぎなかたちをしています。何本もの細い柱が束になって立ち、その断面が亀の甲羅のように割れている。柱状節理と呼ばれる、マグマがゆっくり冷えて固まるときに生まれる形です。それを日本海の波が、気の遠くなるほどの年月をかけて削り出し、高さおよそ25メートルの絶壁として地上にあらわしました。崖のへりに立つと、目の前にはさえぎるもののない水平線。風が体を押し、足もとでは波が白く泡立っています。自然の力をこれほど近くで感じる場所は、そう多くありません。岩を見ているはずなのに、見ているこちらの輪郭まで、少し削られていくような気がしました。
夕日と、岩がためた時間
夕方、空の色がゆっくりと移ろい、やがて陽が日本海へ沈んでいきます。灰色だった岩肌が、橙にも紅にも染まり、波の一つひとつが光をはじいて、海面が一面、金色にゆれる。冬には風向きが変わり、荒波が壁のように崖へ打ち寄せます。岩の表情は、季節と時刻でまるで別の顔になります。この岩がかたちづくられたのは、およそ千二百万年も前のことだといいます。私の仕事は救急で、ときに一秒を争います。その手のなかの時間と、岩がためてきた途方もない時間。同じ「時間」という言葉が、ここではまるで違う重さで立っていました。
波がほどけ、岩は黙って立っている。
千二百万年の、ひとつづきの夕暮れ。
訪れる方へ ― 見頃
通年で楽しめますが、光と波で表情が大きく変わります。
東尋坊は一年を通して訪れることができます。とりわけ夕方は、日本海に沈む夕日が岩肌と海面を染め上げ、忘れがたい時間になります。冬は荒波がぶつかり合い、自然の迫力がもっとも高まる季節です。海の上から断崖を見上げたい方には、岩の足もとまで近づく遊覧船があり、一周はおよそ30分。波が高い日や冬季は欠航することもあるため、運航状況は事前にご確認ください。なお、崖のへりには柵の少ない場所が多くあります。強風や高波の日は無理に先端へ進まず、足もとと身の安全をいちばんに、ゆとりをもってお過ごしください。
アクセス
鉄道では、JR北陸本線・芦原温泉駅、またはえちぜん鉄道のあわら湯のまち駅が起点になります。芦原温泉駅からは京福バスの東尋坊線でおよそ40分、終点で降りて海へ向かって歩けば、ほどなく断崖に出ます。本数は時間帯や曜日でかぎられるため、帰りの時刻も合わせて確かめておくと安心です。お車の場合は周辺に駐車場があり、商店街を抜けて崖までは歩いてすぐ。最新のダイヤや運賃は、各社の公式案内でご確認ください。
撮影のヒント
いちばんの見せどころは、夕方の光です。陽が低くなるにつれ岩肌に陰影が深まり、柱状節理の凹凸が立ち上がってきます。海面に伸びる金色の道を画面に入れると、奥行きが生まれます。荒波を撮るなら、シャッター速度を少し落とした長秒露光で、砕ける波を絹のように流すのも一案です。三脚と、レンズを守る防滴の備えがあると安心でしょう。広角で断崖の連なりを大きく、望遠で柱の質感に寄る。構図を変えるたび、別の東尋坊が現れます。ただし夢中になりすぎないこと。一歩下がった、安全な足場から狙ってください。
あわせて巡りたい
東尋坊からほど近い雄島は、朱塗りの橋を渡って原生林を歩ける小さな島で、静けさが心に残ります。車で数分の越前松島は、苔むした松と奇岩が点在する景色がうつくしく、東尋坊とはまた違う海の表情に出会えます。一日の終わりには、あわら温泉でゆっくりと体を温めるのもよいでしょう。荒々しい海を見たあとの湯は、ことのほか深く沁みわたります。