JOURNAL ・ 撮影地の記録
河津桜とスカイツリー ― 三つの川辺の、早すぎる春
まだ冬のコートを手放せない二月。それでも、いくつかの川辺だけは、もう春の色をしています。河津桜。ソメイヨシノよりひと足もふた足も早く、濃いピンクの花をいっぱいに咲かせる早咲きの桜です。東京と千葉、三つの水辺で出会ったその色を、一枚の写真とともにお届けします。
川面の上に、銀色の塔が立っている
押上、東武橋のたもと。北十間川に沿って植えられた河津桜は、見上げるほどの高さで濃いピンクの花を空に広げます。その枝の向こう、すぐ目の前に、東京スカイツリーが銀色の身体をまっすぐ立てている。早咲きの桜と、現代の塔。本来なら出会うはずのない二つが、二月の澄んだ空気の中で静かに重なります。まだ街全体が春を待っているこの時季に、ここだけはもう咲いている ― その少しの後ろめたさのような嬉しさが、毎年この場所に人を呼ぶのだと思います。花の色がいつもより濃く見えるのは、きっと、空がまだ冬のままだからです。
三つの川辺、二つの早春
同じ河津桜でも、川辺ごとに表情が違います。押上から少し離れた旧中川の水辺では、流れが静かに止まった瞬間、二百本を超える桜と、晴れた日のスカイツリーが、そっくりそのまま水面に映り込みます。空と桜と塔が、上にも下にも広がる景色。そして千葉、旭市の岩井の堰へ向かうと、都市の気配は消え、一面の菜の花の黄色を囲むように河津桜のピンクが咲いていました。濃いピンクと、やわらかな黄色。里の春は、こんなにも色が豊かなのかと驚きます。救急の当直明け、まだ眠っていない頭で水辺に立つと、流れる水の音だけが、止まらない時間をそっと連れていってくれるようでした。
二月の川辺に、ひと足早い春。
濃いピンクが、冬の空をやさしくほどく。
訪れる方へ ― 見頃
早咲きの桜だからこそ、暦より早く動くのがこつです。
河津桜は、東京・千葉ではおよそ二月下旬から三月上旬にかけて見頃を迎えます。ソメイヨシノよりひと月ほど早く、暖かい年には二月の半ばから咲き始めることもあります。押上・東武橋は北十間川沿いの遊歩道から間近に楽しめ、旧中川は二百本を超える桜と水鏡が見どころ。千葉・旭市の岩井の堰では、菜の花畑を囲むように咲く河津桜との色の競演が楽しめます。開花は年により前後しますので、最新の状況は各地の公式情報でご確認ください。
アクセス
押上・東武橋へは、東武スカイツリーラインのとうきょうスカイツリー駅、または都営浅草線・東京メトロ半蔵門線の押上駅が最寄りで、いずれも歩いてすぐです。旧中川の水辺は、JR総武線の平井駅などから歩いて向かえます。千葉・旭市の岩井の堰は車での訪問が便利ですが、最寄り駅やバス便もありますので、行き方は最新情報をあわせてご確認ください。
撮影のヒント
スカイツリーと桜を一緒に収めるなら、塔を画面のどこに置くかで印象が大きく変わります。枝のすき間から塔をのぞかせると、奥行きが生まれます。河津桜は色が濃いぶん、明るく撮ると花の階調がとびやすいので、少し露出を抑えめにすると、あの濃いピンクが沈まずに残ります。旧中川では、風の弱い朝、水面が鏡になる一瞬を待つのがおすすめです。岩井の堰では、ピンクと黄色を画面の中で隣り合わせにすると、早春の色のコントラストがそのまま一枚になります。
あわせて巡りたい
押上では、とうきょうスカイツリータウンの展望台から、自分が見上げた桜の川を今度は上から見下ろすのも一興です。下町の商店街や古い喫茶店をめぐれば、塔の足もとに流れる時間に出会えます。足をのばして千葉・房総まで向かえば、海沿いの里にも早春の花が点々と咲いていて、都市と里、二つの春をひとつの旅でつなぐことができます。