JOURNAL ・ 撮影地の記録
上野東照宮ぼたん苑 ― 都心の社に咲く、四季の花
東京・上野。人の波が絶えない街のただなかに、季節がゆっくりと色を替える小さな庭があります。徳川家康公を祀る金色の社のかたわら、藁の囲いに守られて咲く冬牡丹。喧騒のすぐ向こうで、花は静かに、けれど確かに息づいていました。
わらぼっちの下で、花が灯る
冬の上野東照宮ぼたん苑を歩くと、まず目に入るのは円錐形の藁囲い、「わらぼっち」です。雪や霜から花を守るために一輪ずつかぶせられた小さな蓑のなかで、寒牡丹がぽっと灯るように咲いています。本来なら春に咲く花が、人の手と藁のぬくもりに支えられて、いちばん寒い季節に大輪をひらく。その健気さに、なぜか心が動かされます。守られているのは花だけではなく、見る側の心のほうかもしれません。冷えた空気のなかで、ひとつの花の前にしばらく立ち止まる。それだけで、ささくれた一日がほどけていきます。
都心に灯る、四季の名園
この苑のいちばんの贅沢は、一年を通じて花が絶えないことです。新春には水仙が清らかに香り、四月から五月の春のぼたん祭では、日本や中国、アメリカ、フランスで育まれた百十品種五百株もの大輪が咲き競います。秋にはダリア(別名・天竺牡丹)が並び、花を浮かべた花手水が訪れる人を迎えます。救急の現場で時間に追われる日々のなかでも、ここでは時間がやわらかく流れます。地下鉄の轟きも雑踏も、苑の門をくぐればふっと遠ざかり、花の前ではただ、季節の移ろいだけが残るのです。
いちばん寒い日に、いちばん優しい花が咲く。
藁の囲いの下で、春を待たずに。
訪れる方へ ― 見頃
花の時季をおさえて、いちばん良い表情に会いに行きましょう。
冬ぼたんは例年1月1日ごろから2月下旬ごろまで、わらぼっちに包まれた寒牡丹と新春の水仙が見頃を迎えます。春のぼたんは例年4月上旬から5月初旬ごろ、五百株の大輪が苑いっぱいに咲きそろいます。入苑料は大人およそ1,000円、小学生以下は無料が目安ですが、会期や料金は年によって変わりますので、最新情報は公式でご確認ください。秋には大輪のダリアが咲き、花を水に浮かべた花手水も飾られます。季節ごとに公開の時季が分かれていますから、訪れる前に今どの花が見られるかを確かめておくと、いちばん良い表情に出会えます。
アクセス
JR上野駅の公園口から、上野恩賜公園を抜けて徒歩およそ5分。京成上野駅の池之端口や、東京メトロ千代田線の根津駅からも歩いて向かえます。上野東照宮の社殿に隣り合うかたちで苑の入口があります。上野公園は広いので、公園口を出たら動物園方面へと進むと迷いにくいでしょう。週末や見頃の時期は人出が多いため、開苑直後の静かな時間に訪ねるのがおすすめです。
撮影のヒント
冬は、藁囲いと花を一枚に収める寄りの構図が王道です。わらぼっちの素朴な質感と、牡丹の繊細な花びらの対比が、季節そのものを語ってくれます。雪が舞った翌朝は、花の上に薄く雪化粧が乗り、いっそう詩的に。背景に金色の社殿や石灯籠をぼかして添えれば、ここが都心の社であることがそっと伝わります。曇りの日のやわらかな光が、花の陰影をいちばん美しく描いてくれます。
あわせて巡りたい
苑を出たら、すぐ隣の上野東照宮の金色殿へ。きらびやかな社殿と、参道に並ぶ石灯籠は一見の価値があります。広々とした上野恩賜公園を散策し、蓮に覆われた不忍池まで足をのばせば、都心とは思えない静けさに出会えます。上野には国立科学博物館や東京国立博物館、美術館も集まっていますから、花を眺めたあとに芸術や自然史にふれる一日を組み立てるのもおすすめです。
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