JOURNAL ・ 撮影地の記録
御手洗池 ― 苔の聖地に湧く、青く澄んだ泉
福井・勝山。杉の巨木が空を覆い、足もとには一面の苔がひろがる森のなかに、その泉はあります。平泉寺白山神社、御手洗池。千三百年前、白山を開いた泰澄がここで女神に出会ったと伝わる、神聖な湧水。水はどこまでも澄み、緑の光だけがしずかに揺れています。
苔が呼吸する森で、ひとつの泉に出会う
参道に足を踏み入れた瞬間、空気が変わります。杉の巨木が頭上で枝を交わし、差し込む光はやわらかく、地面という地面が深い緑の苔に覆われている。ヒノキゴケを主に、周辺をふくめれば二百種を超える苔が自生するこの境内は、いつしか「苔宮」「苔寺」と呼ばれるようになりました。その苔の海をしばらく歩くと、木立のあいだに小さな水面があらわれます。御手洗池です。湧き出す水はおどろくほど透きとおり、底の小石や沈んだ落ち葉までくっきりと見える。緑に包まれたその一画だけ、時間がそっと止まっているようでした。
千三百年を湧きつづけた、はじまりの水
伝承では、越知山で修行していた泰澄が女神の招きに応じてこの地を訪れ、林のなかの泉のほとりで祈ったとき、池の中の石に白山の女神があらわれ、登拝をうながしたといいます。やがてこの泉のかたわらに白山大神を祀る祠が建てられ、それが社のはじまりとなりました。かつて平清水と呼ばれたこの水こそ、平泉寺という名の由来でもあります。救急の現場で、私の時間はいつも秒単位で過ぎていきます。けれどこの泉のほとりに立つと、千三百年という途方もない時間が、ただ静かにそこに湛えられていることに気づかされる。湧き水は、昔も今も、変わらず澄んでいるのです。
苔は呼吸し、水は湧きつづける。
千三百年を、変わらぬ静けさで。
訪れる方へ ― 見頃
いちばん美しいのは、雨上がりの苔が光をふくむ頃です。
苔がもっとも生き生きとするのは、例年おおよそ六月から七月、梅雨のころと言われます。雨をふくんだ苔は深く濃い緑に染まり、特に雨が上がった翌朝はしっとりと輝いて、森全体が瑞々しく息づきます。新緑が芽吹く五月や、雨上がりの初夏もまた格別で、杉の若葉と苔の緑が幾重にも重なります。境内は自由に参拝できますが、拝殿・本殿まで往復すると一時間ほど。ゆっくり歩いて、苔の海と泉のしずけさを味わってください。
アクセス
えちぜん鉄道勝山駅が起点になります。駅からは平泉寺方面のバス、またはタクシーでおよそ十分。お車であれば北陸自動車道からのアクセスも便利です。勝山駅ではレンタサイクルもあり、新緑の季節なら自転車で里の風景をたどりながら向かうのも気持ちのよいものです。最新の運行情報は、出かける前にご確認ください。
撮影のヒント
この場所は、晴天よりも曇りや雨上がりがよく似合います。やわらかな曇天の光は苔のあらゆる緑の階調をていねいに描き分け、強い日差しのつくる硬い影を消してくれる。湧水の透明感を写すなら、偏光フィルターで水面の反射をすこし抑えると、底まで澄んだ泉の質感が立ちあがります。木漏れ日が苔に落ちる瞬間や、雨粒をまとった葉先など、足もとの小さな世界にもぜひ目を向けてみてください。ここは神域ですから、立入の控えられた場所には踏み込まず、静けさそのものを壊さぬよう、そっと一枚を結ぶのがいちばんです。
あわせて巡りたい
境内一帯は国史跡「白山平泉寺旧境内」に指定され、かつてはいまの何倍もの広さを誇る巨大な宗教都市でした。隣接する歴史探遊館「まほろば」では、その壮大な歴史と白山信仰の物語にふれられます。そして勝山といえば、世界有数の規模を誇る福井県立恐竜博物館。苔と泉の静寂と、太古の生命のダイナミズム。その対比もまた、この土地ならではの旅の愉しみです。
御手洗池の静けさを、FUJICOLOR最高級印画紙への銀塩プリントで。深い苔の緑と湧水の透明感を、一枚の作品としてお手もとに。世界各国へ発送いたします。
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