JOURNAL ・ 撮影地の記録
アイスチューリップ ― 真冬に咲く、氷の春
千葉・船橋。空気が刺すように冷たい一月の朝、花畑に立つと、そこには春がありました。赤、白、黄、桃。色とりどりのチューリップが、霜の降りた地面から、まっすぐに、凛と咲いているのです。季節を間違えたわけではありません。これは「アイスチューリップ」。真冬に、ほんものの春の色を見せてくれる、不思議な花です。
真冬に、春の色が灯る
チューリップといえば、四月の花です。やわらかな陽の下、青空を背に揺れる姿を、誰もが思い浮かべるでしょう。ところが、雪のちらつく一月の花畑に、その同じ花が咲いていたら。最初は、目を疑います。けれど近づいてみると、寒さのなかで花びらはむしろ深く色を湛え、茎はぴんと張りつめている。あたたかな春よりも、どこか張りのある美しさです。吐く息が白くなるほどの冷たさのなかで、花だけが小さな灯のように色を放っている。その対比に、心が静かに動かされます。
氷をくぐって咲く花
アイスチューリップは、特別な品種ではありません。ふつうのチューリップの球根を、夏から秋にかけて冷蔵庫のなかで長く眠らせ、冬の寒さをひと足早く経験させる。そうして外へ植えると、球根は「もう春が来た」と勘違いし、真冬に花を開くのです。人の手が、季節を少しだけ先取りしてあげる。しかも低温のなかで咲くぶん、花もちがよく、ひと月近くも咲き続けます。夜勤明けの凍えるような朝、この花畑に立つと、まだ来ぬ春を借りてきたような心地がして、冷えた指先がふっとゆるみます。
雪のなかに、春をひとつ。
氷をくぐって、花は咲く。
訪れる方へ ― 見頃
色が最も深く、空気が最も澄む。冬こそ、この花の季節です。
アイスチューリップの見頃は、例年およそ十二月から二月ごろ。千葉県船橋市のふなばしアンデルセン公園では、二十種ほど・数万株のチューリップが冬の花畑を彩り、例年一月ごろに見頃を迎えます(入園料が必要です)。一方、東京・上野恩賜公園では、噴水広場まわりの植え込みなどで冬咲きのチューリップに出会えることがあり、こちらは入園無料です。開花は年や天候によって前後しますので、お出かけ前に各公園の公式情報でご確認ください。
アクセス
ふなばしアンデルセン公園へは、新京成線の三咲駅やJR・東葉高速鉄道の駅などからバスを乗り継いで向かうのが一般的です。上野恩賜公園は、JR・東京メトロ・京成電鉄の各上野駅からすぐで、都心からの行き帰りにふらりと立ち寄れる近さが魅力です。いずれも便や所要時間は変わることがありますので、最新のアクセス情報をご確認のうえお出かけください。
撮影のヒント
冬の光は低く、やわらかく、色を澄んで写してくれます。澄んだ空気のおかげで、花びらの赤や黄はことさら鮮やかに発色します。狙い目は、朝のうち。花や地面に薄く霜が残り、運がよければ雪をまとった一輪に出会えます。背景を大きくぼかして一輪を主役にするのもよし、花畑を低い位置から見上げて、冬空までいっしょに収めるのもよし。白い息や凍てついた地面をあえて画面に残すと、「真冬に咲く」という不思議が、一枚のなかに静かに立ちのぼります。
あわせて巡りたい
アンデルセン公園は花畑のほかにも、風車のある北欧風の風景や、冬枯れの林、子どもとめぐる広い園内が魅力で、半日をゆっくり過ごせます。上野なら、花を見たあとに美術館や博物館、不忍池のほとりを歩くのもおすすめです。寒い季節は人出も落ち着いて、花と静かに向き合える時間が増えます。あたたかい飲み物を片手に、冬の公園をどうぞゆっくりと。