JOURNAL ・ 撮影地の記録
香嵐渓の紅葉 ― 巴川を彩る、東海一の朱
愛知・豊田の山あい、足助。巴川の細い流れに沿って、谷がまるごと朱と金に染まる季節があります。約4000本というもみじが、見上げるかぎりの空を覆い、川面までも色で満たす。東海屈指と呼ばれるその紅葉は、ただ眺めるというより、色のなかへ静かに沈んでいく時間でした。
谷が、ひとつの色になるとき
待月橋のたもとに立つと、視界の上半分がそっくり紅葉に置きかわります。頭上のもみじ、向こう岸の斜面を駆けのぼるもみじ、そして足もとの巴川に映り込むもみじ。色が三重に重なって、どこからが空でどこからが水なのか、しばらく分からなくなります。一本一本は小さな葉なのに、四千本が集まると谷そのものが燃えているように見える。心が動くのは、たぶんその規模のせいだけではありません。これほどの紅葉が、自然にできたものではなく、人の手で植えられ、長い時間をかけて育てられてきた、という事実が、見上げる色をいっそう深くするのだと思います。
一人の住職が植えた、四百年の秋
香嵐渓の紅葉は、江戸初期の寛永11年(1634年)ごろ、飯盛山の中腹にある香積寺の住職が、参道に杉ともみじを一本ずつ手植えしたのが始まりと伝えられます。やがて地元の人々が植え継ぎ、四百年近い歳月をかけて、いまの谷ができあがりました。日没から灯るライトアップに照らされると、飯盛山が黄金色に浮かび、待月橋の朱と、川面に落ちた光がゆらめきます。昼の鮮烈さとは別の、息をひそめるような夜。救急の現場で時間に追われる日々を過ごしていると、四百年という時間の流れの前では、自分の一日がふいに小さく、そして愛おしく感じられました。
四百年前の一本が、
いまも谷を朱に染めている。
訪れる方へ ― 見頃
色のピークは短く、その一週間に谷のすべてが集まります。
香嵐渓の紅葉は例年11月中旬から下旬にかけて見頃を迎えます。例年11月のひと月を通して「香嵐渓もみじまつり」が開かれ、期間中は日没から夜21時ごろまで飯盛山一帯がライトアップされます。朱塗りの待月橋と巴川の水面に光が映る様子は幻想的で、昼と夜で二度楽しめるのがこの地ならではです。ただし色づきはその年の気温に大きく左右されます。見頃やまつりの日程は変わることもありますので、最新情報は足助観光協会などの公式発表でお確かめください。
アクセス
車では東海環状自動車道の豊田勘八ICや豊田松平IC、鞍ヶ池ICから国道153号・県道経由でおよそ15〜20分です。香嵐渓には数百台規模の駐車場があり、紅葉シーズンは1回1000円ほどが目安となります。公共交通機関なら、名鉄三河線・豊田線「豊田市」駅から名鉄バスで約50分、名鉄名古屋本線「東岡崎」駅からは約70分で「香嵐渓」バス停に着きます。なお11月の土日祝は周辺道路が大変混み合い、所要時間が倍近くに伸びることもあります。可能であれば平日や早朝の訪問がおすすめです。
撮影のヒント
日中は順光より、葉を透かす逆光や斜光が紅葉を最も鮮やかに見せてくれます。狙い目は二つ。ひとつは待月橋の朱を主役に、その背後の谷一面の紅葉を重ねる構図。もうひとつは、風の止んだ瞬間の巴川を使ったリフレクションです。川面が鏡になると、実景と映り込みで画面が上下対称になり、色の密度が一気に増します。夜のライトアップは光量が落ちるため、三脚があると安心です。橋と光をやや絞り込んで写し止めると、昼とはまるで違う、静かな一枚になります。
あわせて巡りたい
香嵐渓のすぐ隣には、江戸期からの商家や塗り壁の家並みが続く足助の古い町並みが残り、国の重要伝統的建造物群保存地区に選ばれています。坂と路地をのんびり歩くだけでも旅の気分が深まります。谷のなかにある三州足助屋敷では、機織りや竹細工、鍛冶や五平餅づくりといった山里の昔の手仕事を間近に見たり、体験したりできます。紅葉に染まる一日の合間に立ち寄れば、足助という土地そのものの記憶に、もう一歩ふれられるはずです。
四百年の時が育てた香嵐渓の紅葉を、FUJICOLOR最高級印画紙への銀塩プリントでお届けします。色の深みまで写し取った一枚を、世界中どこへでも発送いたします。
作品を見る →