JOURNAL ・ 撮影地の記録
六義園の枝垂れ桜 ― 名勝庭園に落ちる、春の夜の滝
東京・文京区。山手線の駅から歩いてほんの数分の場所に、江戸の大名がつくった庭が、今も静かに息づいています。回遊式の築山泉水庭園、六義園。その内庭大門をくぐった先に、一本のしだれ桜が立っています。高さおよそ15メートル。満開のころには、薄紅の花が頭上から足もとへと、まるで滝のように流れ落ちていきます。
枝という枝から、春がこぼれ落ちる
はじめてこの木の下に立ったとき、私はしばらく動けませんでした。見上げるというより、降りそそがれる、という感覚に近いのです。空から枝垂れた無数の枝が、それぞれに薄紅の花をまとい、やわらかな弧を描きながら地面へと向かっていく。風がわたるたびに花が揺れ、まるで水面がさざめくように、桜の滝が静かに動きます。一本の木が、これほどまでに豊かに春をたたえることがあるのだと、その姿は教えてくれます。樹齢はおよそ70年と言われ、長い年月をかけて少しずつ枝を広げ、今の堂々とした滝の姿になりました。一年のうちのほんの数日だけ、ここに春の流れが生まれるのです。
夜のしじまに、薄紅の滝が浮かぶ
この桜がもっとも忘れがたい表情を見せるのは、日が暮れてからです。例年、満開の時季に合わせて夜間の特別観賞が催され、しだれ桜が下から照らし出されます。昼間のやわらかな薄紅とはまるで別の花のように、闇を背にした桜は、いっそう濃く、いっそう静かに浮かび上がります。まわりの大名庭園は深い影に沈み、池の水面にだけ淡い光が映り込む。救急の現場で時間に追われて過ごす私にとって、この庭の夜の静けさは、ふだんの世界とは別の時間が流れているように感じられます。人の声も自然と低くなり、ただ滝のような桜だけが、音もなく光のなかに立っている。そんな夜のひとときが、ここにはあります。
闇のなかに、薄紅の滝が一本。
音もなく、春が落ちていく。
訪れる方へ ― 見頃
はじめての方のために、訪ねやすい季節をまとめます。
しだれ桜はソメイヨシノよりひと足早く咲き、見頃は例年3月下旬ごろです。その年の気温で前後しますので、出かける前に開花状況を確かめておくと安心です。満開に合わせて夜間の特別観賞が催される年が多く、その期間は夕方から夜にかけて特別に開園し、桜がライトアップされます。通常の入園料はおよそ300円ですが、夜間特別観賞は別料金で、前売券と当日券で金額が異なるのが通例です。開催の有無や日程、料金は年によって変わりますので、最新情報は必ず公式でご確認ください。見頃の週末や夜間開園の時間帯はたいへん混み合いますので、平日や開園直後など、時間に余裕をもって訪ねるのがおすすめです。
アクセス
最寄りは駒込駅です。JR山手線と東京メトロ南北線が乗り入れ、駅から六義園の正門までは歩いておよそ7分。住宅街の道をしばらく進むと、塀に囲まれた静かな庭の入口が現れます。都営三田線の千石駅からも歩いて10分ほどです。都心にありながら駅からすぐという近さも、この庭の魅力のひとつです。
撮影のヒント
夜桜は、撮る人にとってやさしい被写体ではありません。光が足りず、桜は風に揺れ、シャッターは自然と遅くなります。だからこそ、ぶれを抑える工夫が一枚を分けます。三脚が使えれば理想的ですが、夜間特別観賞では混雑への配慮から三脚の使用が制限されることが多いので、持参の前に必ず園のルールをご確認ください。手持ちで撮るなら、感度を上げ、息を整え、桜が止まる一瞬を待ちます。構図では、滝のように落ちる枝の流れを画面の上から下へ大きく通してやると、あの薄紅の流れがそのまま写真に宿ります。背景の闇をたっぷり残すと、浮かび上がる桜がより際立ちます。
あわせて巡りたい
六義園のある駒込の界隈は、庭園の散歩がよく似合う土地です。駅をはさんだ反対側には、洋館とバラ、そして日本庭園が同居する旧古河庭園があります。少し足をのばせば、水戸徳川家の大名庭園、小石川後楽園にも出られます。同じ江戸の庭でも趣はそれぞれに異なり、春の一日を庭から庭へとめぐる時間は、この街ならではの贅沢です。
闇に浮かぶ六義園のしだれ桜を、FUJICOLOR最高級印画紙への銀塩プリントでお届けします。深い夜の黒と薄紅の階調まで丁寧に焼き上げ、世界中へ発送いたします。
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