撮影術・機材
ふんわり撮る、二つの道 ― ソフトフィルターと、オールドレンズ
「この、やわらかい光は何ですか」と、よく聞かれます。正直に答えると、ひとつの道具の名前では答えられません。やわらかさは、光そのものと、レンズと、その前に足すガラスの三つが少しずつ持ち寄って生まれるものだからです。この記事では、そのうち意図的に足せる二つの道――現代のレンズにソフトフィルターを重ねる道と、はじめからにじむオールドレンズを選ぶ道――を並べて整理します。作例としてお見せできるのはオールドレンズの道のほうなので、フィルターについては仕組みと使い方を言葉で丁寧に書きます。
やわらかさは、どこから来るのか
まず前提を分けておきます。写真の「ふんわり」には、少なくとも三つの出どころがあります。
いちばん大きいのは、実は一番目の光です。曇りの日の拡散光、朝もやの向こうの太陽、木洩れ日。これは道具では買えません。二番目と三番目が、こちらから足しにいける部分です。そして重要なのは、二番目と三番目は似た効果を、まったく違う仕組みで出しているということ。だから片方を持っていれば片方が要らない、という関係にはなりません。
関連する撮影術
同じ道具と、同じ光の話。続けて読むと、撮り方がつながります。
道その1 ― ソフトフィルターを重ねる
ソフトフィルターは、レンズの前に着けるガラスです。表面にごく浅い凹凸や微細な粒子が仕込まれていて、通り抜ける光をわずかに拡散させます。効果がいちばん出るのはハイライトで、明るい部分が周囲へふわりとにじみ出し、硬い光が空気をまとったように見える。暗部はほとんど変わらないので、写真全体がぼやけるのとは違います。ピントは合っているのに、光だけが柔らかい――これがこのガラスの正体です。
どんな場面で着けるか
着けどころは、明暗差のある場面です。逆光や半逆光で花びらの縁が光っているとき、朝夕の低い太陽が画面に入るとき、白い花に強い光が当たっているとき。光の粒が画面のどこかで飽和している場面ほど、にじみは素直に出ます。
逆に、曇天のフラットな光では効果がほとんど見えません。もともと拡散した光には、拡散させる余地が残っていないからです。「柔らかく撮りたいから曇りの日に着ける」は、じつは逆で、硬い光の日にこそ効く道具です。
効果はどう出るか
実際に着けて撮ると、変化は主に二つの形で現れます。ひとつは点光源のにじみ。木洩れ日、水面のきらめき、街灯、逆光でハイライトになった葉の縁――そうした小さな光の点が、周囲へふわりと広がって光の玉になります。もうひとつはコントラストの緩みで、明るい部分から暗い部分へ光がわずかに漏れるぶん、画面全体の締まりが少しゆるみます。黒が浅くなる、と言ってもいい。これを「眠い」と取るか「空気が写った」と取るかが、この道具の好き嫌いを分けます。
強さの選び方
効きの強弱は、まず製品の番手(効果の強さ)で選びます。加えて、絞りでも変わります。開けるほど強く、絞るほど弱くなる傾向があるので、同じフィルターのままF2.8とF11で撮り比べておくと、一本のレンズの中でどれだけ効かせられるかの幅がつかめます。使いはじめは「思ったより効きすぎる」と感じることが多いので、効果の弱い番手から入るのが安全です。
逆光での性格
逆光は、このフィルターがいちばん個性を出す場面です。太陽やその手前の枝葉から漏れた光が画面全体へ薄い膜のように広がり、写真が一段「あたたかい方向」へ寄ります。ただし、その膜はコントラストを確実に下げるので、細部の描写を残したい被写体とは相性が悪い。逆光で使うなら、細かい質感は捨てる覚悟で使うのが結果的にきれいです。
注意点もあります。夜景やイルミネーションのように点光源が多い場面では、光の粒がすべて広がって別物の絵になります。狙ってやるなら強力な表現ですが、記録性が要る場面では外します。着けっぱなしにしないこと――これがいちばん大事な使い方です。
道その2 ― レンズそのものがにじむ
もうひとつの道は、フィルターを足さずに、にじみを持ったレンズを使うことです。古いレンズは単層コーティングだったり、収差を現代ほど追い込んでいなかったりするので、開放付近ではハイライトが自然に広がります。フィルターと似た「ふわり」が、ガラス一枚足さずに出る。
ここからの作例は、すべてオールドレンズ HELIOS-44-2 58mm F2 の描写です。フィルターは着けていません。埼玉・新座のなんじゃもんじゃは真白い花の塊がふわりとにじんで雪のような質感になり、同じ木を夜に撮ったなんじゃもんじゃ 夜では、濃紺の闇に白がぼうっと浮かびます。千葉・船橋のアイスチューリップ畑は開放で撮って手前も奥も色の帯にとかし、鋸南町の水仙は枯れ草越しの一輪だけを残して前後をもやのようににじませました。
オールドレンズのにじみ ― 四枚
いずれも HELIOS-44-2 58mm F2 で撮影した作品です(フィルターは使っていません)。FUJICOLOR最高級印画紙の銀塩プリントでお届けします。
同じレンズの上野公園のアイスチューリップでは、街灯という一点の光から放射状の光条とゴーストの弧が伸びました。点光源が広がるという意味では、ソフトフィルターで起こることと現象は近いのですが、広がり方の癖はレンズの設計そのものから来ているので、フィルターで再現できるものではありません。逆もまた然りです。
そしてオールドレンズには、決定的な弱点があります。ピントも絞りも手動で、写りの癖を選べません。「今日はにじませない」ができないのが、フィルターとの最大の違いです。ソフトフィルターは着ける・外すの二択で表現を切り替えられます。この可逆性が、現代レンズ+フィルターの最大の利点です。
後処理では、どこまで代わりになるか
「Lightroomでかすみの除去をマイナスにすれば同じでは」と聞かれることがあります。ある程度までは近づきます。ただ、レンズの前で光が広がるのと、撮れた画素をあとから滲ませるのとでは、ハイライトの広がり方の自然さが違うというのが実感です。特に強い点光源の周りは、光学的に広げたほうが素直に見えます。逆にいえば、弱いソフト効果なら後処理で十分なことも多い。手持ちの写真を一枚、かすみの除去マイナスで試してから買っても遅くありません。
私が使っているソフトフィルター
マルミ ソフトファンタジーII(DHG ソフト効果・日本製)
私が撮影に持ち歩いているソフトフィルターです。ハイライトがふわりとにじみ、硬い光が空気をまとったように柔らかくなります。後処理では出しにくい、レンズの前でしか生まれない質感です。標準ズーム用に77mmを使っています。
径は、着けたいレンズのフィルター径に合わせて選びます。私は標準ズーム用に77mm、40mm単焦点用に52mmを使い分けています(52mmを含むほかの機材は撮影機材ガイドにまとめています)。ステップアップリングを使えば一枚を複数のレンズで共用することもできますが、フードとの相性は事前に確認してください。
Amazonのアソシエイトとして、Ikebanadoctorは適格販売により収入を得ています。リンク経由でご購入いただくと、売上の一部がIkebanadoctorの制作活動の支えになります(お客様のお支払い金額は変わりません)。心からおすすめできる、実際に使っている道具だけをご紹介しています。
結局、どちらから始めるか
いま持っている現代レンズをそのまま活かしたいなら、ソフトフィルターが早い。着けた瞬間から効果が見えて、外せば元に戻ります。「もっと絵画寄りに、癖のある写りごと欲しい」なら、オールドレンズ一本のほうが安く、しかも表現の幅が大きく変わります。どちらも、目的は同じところにあります。きれいに写すことではなく、その場の光がどう見えたかを残すことです。
光そのものの選び方(曇りの日、時間帯、背景の引き算)は、花風景写真の撮り方にまとめています。
この記事で作例としてご覧いただいた4点を含め、オールドレンズ HELIOS-44-2 58mm F2 で撮った作品は10点あります。すべてFUJICOLOR最高級印画紙の銀塩プリントでお届けしています。撮影に使っている機材は撮影機材ガイドにまとめました。
HELIOS-44-2で撮った10点を見る →
