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朝霧に包まれる茶畑の斜面に咲く、樹齢300年の一本桜

JOURNAL ・ 撮影地の記録

牛代の水目桜 ― 茶畑の斜面に立つ、三百年の一本

📍 静岡県・島田市川根町 🌸 見頃 例年3月下旬〜4月上旬

静岡・川根。大井川の流れに沿って、なだらかな茶畑の斜面が幾重にも続きます。その緑の海のただなかに、一本だけ、淡い紅色をまとった桜が立っています。樹齢300年を超えるといわれるエドヒガン。誰に守られるでもなく、ただ一本で三百の春を見送ってきた木です。

茶畑のただなかに、一本だけ

はじめてその姿を見たとき、思わず足が止まりました。整然と刈り込まれた茶の畝が斜面を埋めつくし、その緑のうねりの頂に、桜がただ一本だけ立っているのです。周囲の山のエドヒガンが白っぽく咲くのに対して、この木はつぼみのころから樹冠ぜんたいが淡いピンクに染まり、満開を迎えると、やわらかな紅色が茶畑の緑にしみるように映えます。群れることを知らない木の、静かな存在感。なぜここまで心が動くのだろうと考えて、たぶんそれは、たった一本で立ちつづけてきた時間の長さに触れるからだと思いました。

三つの表情と、三百年の時間

この桜には、いくつもの顔があります。夜明け前、谷から湧きあがった朝霧にすっぽりと包まれ、輪郭をやわらかく溶かしていく姿。やがて雲の切れ間から光が差しこみ、霧のなかに幾筋もの光芒が走る瞬間。そして霧が晴れたあと、ただ一本で斜面に立つ、孤高というほかない佇まい。救急の現場で過ごす私の時間は、しばしば秒単位で刻まれます。けれどこの木の前に立つと、三百年という途方もない時間の尺度に、自分の呼吸がゆっくりと合っていくのを感じます。慌てない時間が、たしかにここにありました。

三百の春を、ただ一本で。
霧が晴れて、光が、紅をなぞる。

訪れる方へ ― 見頃

いちばん美しい季節は、ほんのわずかな期間です。

見頃は例年3月下旬から4月上旬ごろ。周囲のソメイヨシノよりやや早く咲きはじめる年が多いようです。エドヒガンは開花から満開、そして散りはじめまでが早く、見頃の幅はけっして広くありません。茶畑の新緑が芽吹くにはまだ早い時期ですので、刈り込まれた茶の畝の落ち着いた緑と、淡い紅色の対比が楽しめます。気候によって開花は前後しますので、出かける前には島田市観光協会などで最新の開花状況をご確認ください。夜にはライトアップが行われる年もあり、暗闇に浮かぶ夜桜もまた格別です。

アクセス

公共交通では、大井川鐵道の家山駅から車でおよそ15分。お車の場合は、新東名高速の島田金谷インターチェンジから30分ほどです。山あいの細い道を通りますので、対向車にはどうぞお気をつけください。駐車場については整備状況が変わることがあり、台数にもかぎりがあります。路上に停める場合は、地元の方の通行やお仕事のさまたげにならないよう、十分にご配慮ください。そしてなにより、この桜とまわりの茶畑は個人の所有地です。所有者の方のご厚意で近くまで入らせていただいているのですから、畝のあいだや柵の内側には立ち入らず、茶の木を傷めないよう、静かに楽しませていただきましょう。

撮影のヒント

狙うなら、やはり夜明けから朝のひととき。谷あいに朝霧が出やすく、霧に包まれた桜は幻想的です。霧が動くと一枚ごとに表情が変わるので、根気よくシャッターを待ちました。雲間から光が差す時間帯は、逆光で霧のなかに光芒が立ちます。絞りを絞りこむと光条が伸び、レンズに直接光を入れすぎるとフレアが出ますので、ハレ切りで調整するとよいでしょう。構図は、斜面の茶の畝を手前に大きく入れて、緑のうねりの頂に桜を一本だけ置くと、孤高の佇まいが際立ちます。望遠で圧縮して茶畑の緑を背景にまとめるのも美しい一枚になります。

あわせて巡りたい

川根は、大井川鐵道のSLが走る茶どころです。レトロな客車に揺られながら車窓を流れる茶畑をながめれば、それだけで小さな旅になります。家山には桜のトンネルとして知られる並木道もあり、春には川根じゅうが桜に彩られます。ところで「みずめ桜」という名は、本来は桜ではなくカバノキ科の「ミズメ」を指す呼び名で、なぜこの一本桜がそう呼ばれてきたのか、由来は定かではないのだそうです。三百年の時間が抱える、小さな謎。茶畑をめぐり、温かい新茶を一杯いただきながら、その名の由来に思いをめぐらせるのも、この土地ならではの楽しみです。

📍 所在地静岡県島田市川根町 牛代(大井川流域の茶畑)
🌸 見頃例年3月下旬〜4月上旬(年により前後します)
🌳 樹齢エドヒガン・推定樹齢300年超とも。樹高約20m、幹周約4.2m。市指定天然記念物
🅿️ 駐車場台数にかぎりあり。路上駐車は地元の通行のさまたげにならないようご配慮を
🚉 アクセス大井川鐵道・家山駅から車で約15分/新東名・島田金谷ICから約30分
ℹ️ 最新情報開花状況やライトアップの有無は、島田市観光協会等で事前にご確認ください
牛代の水目桜を写した銀塩プリント
🌸 茶畑にただ一本、三百年の春を、一枚に

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