撮影地ガイド
原岡桟橋 ― 海へ延びる桟橋と、冬の富士
千葉・南房総。海へ細く延びる、古い木の桟橋があります。板の道はまっすぐ沖へ向かい、その突き当たりの、ずっと向こう。冬の澄んだ夕暮れにだけ、小さく富士が立ちます。人の手でつくった細い道の先に、人の手の及ばない遠い山が静かに在る。ほんの十数分の、息をのむような取り合わせです。
板の道の先に、遠い山が立つ
東京湾に夕陽が沈む――そう聞いて、すぐには像を結ばないかもしれません。湾は内海で、波は穏やかで、対岸には街の灯がともる。けれど冬の澄んだ夕暮れには、その静かな海面が一面の金に染まり、水平線の上に富士のシルエットが浮かびます。原岡桟橋は、その舞台にいちばんふさわしい場所でした。海へ細く延びる古い木の桟橋。まっすぐ沖へと伸びる板の道の、その先に小さく富士が立つ。桟橋の柱が一本また一本と影絵になり、足もとの板の隙間から、揺れる水のきらめきが見える。なぜこの一枚に心が動くのか――それはたぶん、人の手でつくられた細い道の先に、人の手の及ばない遠い山が静かに在る、その取り合わせのためだと思うのです。
千葉県の観光案内によれば、この桟橋は大正十年(一九二一年)に漁業用として整備されたもので、全国でも数少ない木製の海桟橋だといいます。百年をこえて海に立ちつづけた板の道。そう知って足もとを見ると、一枚一枚の板の色の褪せ方まで、急にいとおしくなりました。
フレアもゴーストも、隠さずに
この夕景を撮ったのは、フレアもゴーストも隠さないオールドレンズ、HELIOS-44-2 58mm F2 でした。画面いっぱいに広がる光の膜と、右下に並ぶ丸いゴースト。逆光をよけるのではなく、あえて正面から受け止めた結果です。きれいに撮ることが、いつも正解とはかぎりません。山影の向こうへ太陽が落ちはじめ、桟橋の街灯が静かに灯る――潮騒と光がまじりあう、あの刻一刻の変化のほうが、私にはずっと写したいものでした。救急の現場では、時間は刻まれ、追われ、決して止まりません。けれど海辺のこの時間だけは、ただ陽が落ちるのを待つ。同じ「時の流れ」が、こんなにも違って感じられることに、いつも少し驚かされます。
海へ延びる板の道の先に、
夕陽と富士が、ひとつに。
訪れる方へ ― 見頃
対岸の富士まで見通せるのは、空気の乾いた冬の夕暮れです。
十二月から二月ごろ、よく晴れて風の落ち着いた日が狙い目です。原岡海岸からの富士は、国土交通省関東地方整備局の「関東の富士見百景」にも選ばれている眺めで、「青い海と水平線に浮かぶ富士山の眺めは最高である」と紹介されています。とはいえ、富士が見えるかどうかはその日の天気しだい。晴天と空気の澄み具合を確かめてからお出かけになるのが安心です。
アクセス
千葉県の観光案内では、JR内房線・富浦駅から徒歩およそ十五分、富津館山道路の富浦ICからおよそ七分、駐車場は乗用車十台(無料)と案内されています。高速バスなら「とみうら枇杷倶楽部」下車、徒歩およそ十五分です。
ただし、車で向かう方はひとつだけ心にとめておいてください。南房総市は「岡本(原岡)桟橋への迂回路ご利用のお願い」を出しており、桟橋周辺の道路は道幅が大変狭く、混雑や事故が予想されること、そして市民の生活道路でもあることから、迂回路の利用を呼びかけています。南房総市観光協会も「直近の道が狭く見通しが悪いので、速度を落とし十分お気を付けください」と案内しています。迂回路のルート図は南房総市の公式サイトに掲載されていますので、出発前に一度ご確認ください。
撮影のヒント
夕景は、明るさの変化がとても速い被写体です。陽が水平線へ近づくころから、こまめに露出を見直してください。桟橋をシルエットとして際立たせたいなら、空のいちばん明るいところを基準に少し暗めに。逆に海面のきらめきを残したいなら、わずかに明るめに振ります。富士を入れる構図では、桟橋の線や水平線と重ならない高さを探すと、遠い山がすっと立ち上がります。陽が沈んだあとのマジックアワー、空が藍から紫へ沈む十数分こそ、最も色の深い時間です。
三脚があると心強い場面ですが、この桟橋は人気があり、夕暮れどきには人が集まります。狭い板の上では、脚を大きく広げないこと、通り道をふさがないこと。周囲への気づかいと三脚マナーを忘れずに。ここは景勝地であると同時に、地元の方の暮らしのすぐそばにある場所です。
あわせて巡りたい
南房総まで足を延ばすなら、切り立った岩肌と山頂からの大眺望で知られる鋸山がすぐ近くです。真冬なら、山あいの斜面を白く埋める鋸南町の水仙も見頃を迎えます。海の幸や花畑、温泉とあわせて、一泊して夕景を二度味わうのもおすすめです。神奈川側からなら、久里浜と金谷を結ぶ東京湾フェリーに乗れば、海の上から夕陽と富士をのぞむこともできます。陸路と海路、行き帰りで景色を変えれば、同じ東京湾がまた違って見えてくるはずです。
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