機材レビュー
マルミ M100 角型フィルターシステム ― GNDという選択
夕景を撮って、家に帰って見返して、がっかりする。空が真っ白か、手前が真っ黒か、そのどちらかになっている――風景写真でいちばん多い失敗は、たぶんこれです。原因は腕ではなく、目に見えている明暗差が、カメラが一度に写せる幅より広いことにあります。このレビューは、その差を撮る前に縮めるための道具――角型のグラデーションND(GND)の話です。
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白飛びは、後から直せない
まず、なぜ後処理では足りない場面があるのかを整理しておきます。露出を空に合わせれば地面が黒く沈み、地面に合わせれば空が白く飛ぶ。このとき黒く沈んだ側はRAWからかなり持ち上がりますが、白く飛んだ側は戻りません。飛ぶというのは階調が振り切れて全部おなじ白になった状態で、そこにはもう情報が残っていないからです。
だから夕景の露出は「空を守る」が基本になります。朝もやとマジックアワーの撮り方で書いた「夕景はマイナス側に振ると深い色が出る」も、三脚と、夜の撮影の「ヒストグラムの右端を張りつかせない」も、言っていることは同じです。
ただ、空を守ると、こんどは手前が沈みます。そこで「暗くなった手前を持ち上げる」のではなく、「明るすぎる空のほうだけを、撮る前に暗くする」という発想に切り替えるのが、GNDという道具です。
風景写真は、太陽との対話です。逆光、強い日差し、白んでいく空 ― どんな光にも応えてくれるのが、私が使っているマルミ M100 の角型フィルター一式。
― Ikebanadoctorあわせて読みたい ― 撮影術と機材
同じ道具と、同じ光の話。続けて読むと、撮り方がつながります。
なぜ「角型」なのか
グラデーションNDは、一枚のガラス(または樹脂)の片側だけが暗く、反対側が素通しになっているフィルターです。暗い側を空に、素通し側を地面に重ねると、空だけが暗くなり、手前はそのまま残る。目に見えている明暗差が、レンズの前で縮まります。
問題は、明暗の境目が画面のどこにあるかは風景ごとに違うということです。水平線が画面の下三分の一にある日もあれば、中央にある日もある。ねじ込み式の丸いフィルターだと、境界はレンズの中心に固定されてしまい、構図のほうを境界に合わせるはめになります。
角型システムは、ホルダーにフィルターを差し込んで上下にずらせるので、境界を水平線の位置に合わせられます。構図を変えずに境界だけ動かせる――角型が高くてかさばるのに使われ続けている理由は、ほぼこれ一点です。
M100 のホルダーはマグネット式で、レンズ側のリングにパチンと吸い付きます。これは見た目以上に実利があります。夕景の「いちばん良い数分」は、本当に数分で終わります。ネジを回している間に色が変わってしまう場面で、着けるか外すかを一秒で決められることは、フィルターの光学性能と同じくらい効きます。三脚のレビューで書いた「持っていかなければ性能ゼロ」と同じ話で、間に合わない道具は無いのと同じです。
Soft GND と Reverse GND ― 同じ濃さで、二枚
ここがこの一式でいちばん面白いところだと思っています。私が持っているグラデーションNDはSoft GND8 と Reverse GND8 の2枚。名前を見ればわかるとおり、違うのはSoft か Reverse かだけで、末尾の数字は同じです。つまりこの2枚は「濃い/薄い」を選ぶために持っているのではありません。明暗の境目の形を選ぶために持っているのです。
Reverse GND というのは、用途がきわめて限定された道具です。水平線に陽が接している、あの数分のためだけにあると言ってもいい。ふつうのGNDは「上ほど濃い」ので、太陽が水平線にある場面ではいちばん明るい部分がいちばん薄いところに来てしまい、狙いと逆になります。海の夕景を撮る人が2枚目として選ぶのは、たいていこの理由です。
濃さを選ぶのではなく、
明暗の境目の形を選ぶ。
東京湾の夕景という現場
この一式がいちばん本領を出すのは、海のある夕景です。千葉の東京湾岸は、東京から日帰りで行けて、しかも水平線がまっすぐに開けている数少ない場所です。私の夕景の作品にも、この一帯で撮ったものが並びます。
ただ、ここは正直に書いておきます。この4点のどれをGNDで撮ったかは、記録していないのでわかりません。むしろ逆のことがはっきりしている一枚もあります。原岡桟橋の夕陽は、フレアもゴーストも隠さないオールドレンズ HELIOS-44-2 58mm F2 で、あえて逆光を正面から受け止めて撮ったものです。光の膜も丸いゴーストも消さずに残している――明暗差を整えるのとは、まっすぐ反対の判断をした一枚です。
富津岬の夕景も、GNDが要らなかった側の例として読めます。太陽はすでに沈んでいて、展望塔は完全なシルエット。手前の階調を捨てると決めたなら、明暗差は問題ではなくなります。「整える」以外の答えがいつもあるというのが、この道具をレビューするうえでいちばん大事なことだと思っています。
いっぽう 幕張の浜の夕日のように、太陽が水平線に接したまま、手前の岩礁にもまだ質感が残っているという状態は、明暗差を縮めなければ成立しません。Reverse GND が想定しているのは、まさにこの状態です。
東京湾の夕景、四枚
この道具が想定している場面――水平線と、沈む光。いずれも千葉・東京湾岸の作品です(どの一枚にフィルターを使ったかは記録していません)。FUJICOLOR最高級印画紙の銀塩プリントでお届けします。
GNDを使わない、三つの道
この道具を薦める前に、要らない場合を先に書きます。空と地の明暗差を扱う方法は、ほかに三つあります。
それでも一枚のガラスを持つ理由は、たぶん一つだけです。その場で、仕上がりに近い状態を見ながら構図を決められること。あとで合成する前提だと、現場では「たぶんこうなるはず」を想像しながら構図を決めることになります。ファインダーの中で空の色が残っていれば、水平線をどこに置くか、雲をどこまで入れるかを、実際に見ながら決められます。
PLと同じホルダーに載る
この一式には C-PL(円偏光)も含まれます。役割ははっきり分かれていて、PLは反射を引き算する道具、GNDは光量を場所ごとに引き算する道具です。PLの使いどころ・外しどころは紅葉の撮り方に詳しく書いたので、ここでは繰り返しません。
ひとつだけ実務的な注意を。PLもGNDも光を減らすので、重ねるとシャッター速度がそれなりに落ちます。夕方の海辺で二枚重ねると、手持ちが厳しくなる速度域に入ります。三脚の話が結局ここでも効いてきます。
短所 ― 使わない日のほうが多い
正直なところを書きます。この一式は出番の多い道具ではありません。
だから私は、角型を構える時間がないスナップ的な日には、レンズ前に着けるだけの円偏光フィルターを使っています。道具を二系統持っているのは、優柔不断だからではなく、現場の時間の速さが二種類あるからです。
買うなら
マルミ M100 角型フィルターシステム 一式
私が風景撮影に持ち出しているフィルター一式です。マグネットホルダーに C-PL(反射を抑える)とグラデーションND(空と地の明暗差を整える)を組み合わせれば、この一式でほぼ網羅できます。まず1枚だけ選ぶなら、海の夕景が主戦場なら Reverse、山や街並みが多いなら Soft から。
ホルダーはレンズ側の口径に合うリングが要ります。お使いのレンズのフィルター径を先に確認してください。私の使っている機材一式は撮影機材ガイドにまとめています。
記事のトップに使った「幕張の浜の夕日」は、東京湾の水平線に太陽が接した一枚です。空も海も黄金に染まり、岩礁に砕ける波しぶきが宝石のように光ります。FUJICOLOR最高級印画紙の銀塩プリントでお届けします。
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