撮影術・機材
花火の撮り方 ― 三脚とバルブで、一発ぶんの光を残す
花火は、撮る前にほとんど勝負がついている被写体です。シャッターを押す指ではなく、どこに立つか、どちらに風が抜けるか、三脚をどう据えるか。そこまでが済んでいれば、あとは一発ぶんの光がひらいて落ちきるまでを、そのまま焼きつけるだけ。この記事では、長岡まつり大花火大会で撮った販売中の2点を作例に、花火撮影の考え方をまとめます。
まず、三脚が要る理由
花火の写真がふつうのスナップと決定的に違うのは、シャッターが開いている時間そのものが作品になることです。玉がひらいてから、光の筋が尾を引いて落ちきるまでは、だいたい数秒。その数秒をまるごと一枚に収めるので、露光時間は2秒から、長ければ10秒を超えます。手持ちでは絶対に成立しません。
そしてもうひとつ。花火は「同じ構図で待つ」撮影です。空のどこに上がるかは、最初の数発でだいたい読めます。読めたら、その画角のままカメラを固定しておいて、上がるたびにシャッターを開け閉めする。三脚は手ブレを止める道具であると同時に、決めた構図を二時間ずらさないための道具でもあります。河原は暗く、人は多く、足元は砂利です。据えたら動かさない、が結果的にいちばん効きます。
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同じ道具と、同じ光の話。続けて読むと、撮り方がつながります。
場所を決める ― 風向きが写りを決める
花火撮影でいちばん読みたいのは、実は風です。花火は一発ごとに煙を残します。無風か、煙が自分と反対側へ抜けていく場所に立てれば、後半の玉まで澄んだまま撮れる。逆に煙がこちらへ流れてくる位置だと、開始15分で画面が白く濁り、そのあとは何を撮っても眠い写真になります。当日の風向きは天気予報でわかりますから、会場図と見比べて、風下を避けて立ちます。
次に決めるのが、地上のものを入れるか切るかです。対岸の灯り、提灯、見上げる人のシルエット、川面の反射。入れれば「その街の花火」になり、切れば光だけの純度が上がります。どちらが正解ということはなく、その夜に何を残したいかで決めます。
露出の考え方 ― バルブ・低ISO・F8〜F11
花火は「明るさをISOやシャッター速度で合わせる」被写体ではありません。玉そのものは自ら光る点光源なので、明るさは絞りでしか決まらないと思っておくのが近道です。まずISOは100前後の低感度に固定します。上げても写る明るさが増えるだけで、白飛びと高感度ノイズが増えるだけです。
シャッターはバルブ(B)にして、玉が上がる音が聞こえたら開け、光の筋が落ちきったら閉じる。これで一発ぶんがまるごと入ります。連発が重なる場面では、2〜3発ぶんを重ねて豪華にすることもできますが、重ねすぎると白飛びして塊になります。絞りはF8〜F11あたりから始めて、明るすぎたら絞り、暗すぎたら開ける。一発ごとに背面で確認して詰めていくのが確実です。ピントは無限遠ではなく、最初の一発でライブビューを拡大してマニュアルで合わせ、あとは触りません。
手を触れずにシャッターを切るために、リモートレリーズ(またはカメラのセルフタイマー・スマホアプリ)を使います。バルブで押しっぱなしにするタイプのレリーズがあると、指の力み一つでブレる心配がなくなります。安価なもので十分に役目を果たします。
煙と、どう付き合うか
煙は敵ではありません。長岡で撮った紅の夜、ひとすじの光は、むしろ空いっぱいに広がった紅とオレンジの煙がそのまま画面の主役になっています。白い大輪はその煙のなかから立ち上がり、真下には打ち上がったときの軌跡が二本の細い線として残りました。煙が色を持つのは、後続の玉がそれを照らすからです。濁りだと思うか、色のついた霧だと思うかで、シャッターを切る判断が変わります。
とはいえ、澄んだ空に一発だけがひらく瞬間はやはり強い。長岡の正三尺玉は、直径およそ90cm・重さ約300kgの玉が高度600mを超えて開き、直径約650mに広がったところです。見上げても視野に入りきらない大きさで、金色の光条が画面のすみずみを埋め、無数の火の筋が雨のように垂れました。この一枚では、下部に白と赤の提灯と見上げる人影を残しています。
この2点はどちらも、旧ソ連製のオールドレンズ HELIOS-44-2 58mm F2 一本で撮っています。強い光源を正面から受けても破綻せず、にじみがそのまま煙の質感を助けてくれる。フィルターは足していません。やわらかさは、レンズそのものが持っているものです。
長岡の夜、二枚
どちらもオールドレンズ HELIOS-44-2 58mm F2 一本で撮影した作品です。FUJICOLOR最高級印画紙の銀塩プリントでお届けします。
消えるために、
その数秒を、
画角は、思っているより広く
正三尺玉のような大玉は、画角に収まらないものと思って構えるのが正解です。標準ズームの広角側で、しかも空をたっぷり空けておく。上がってから慌ててズームを引くと、その一発は間に合いません。逆に小さめの玉が続く場面では、あとから切り出す前提で広めに撮っておくほうが失敗しません。
縦構図も有効です。花火は上へ伸びる被写体なので、打ち上がる軌跡と開いた花を一枚に入れたいときは縦がよく効きます。ただし夜の河原で雲台を横に倒すと、水平も高さも崩れて据え直しになります。L型プレートを着けておけば、カメラを倒さずそのまま縦へ差し替えられるので、暗い場所ほど効きます。
スマホと、どこが違うのか
いまのスマホは夜景モードが優秀で、花火もそれなりに写ります。ただ、根本的に違うのはシャッターを開いている時間を自分で決められるかどうかです。スマホの自動処理は「ブレない範囲で明るく」を目指すので、光の筋が伸びきる前に切り上げてしまう。結果、花火が点の集まりに写ります。一発ぶんを線として残したいなら、バルブが使えるカメラと、それを支える三脚が要る。逆にいえば、必要なのはその二つだけです。高価な望遠レンズも、明るい大口径も、花火には要りません。
この夜のために持っていくもの
SLIK ライトカーボン E64 II
私が使っているカーボン三脚です。持ち運べるコンパクトさ・軽さと、しっかり伸びる高さ。本来は相反するこの二つを絶妙なバランスで両立した一台で、旅にも撮影にも気軽に連れていけます。「重いから置いていく」が起こらない重さであることが、夜の撮影ではいちばん効きます。
L型クイックリリースプレート(アルカスイス互換)
縦位置で撮るとき、雲台を横に倒すと構図もバランスも崩れがちです。L字プレートを着けておけば、カメラを倒さずそのまま縦に差し替えられます。アルカスイス互換なので、多くの三脚にそのまま載ります。暗い場所ほど、この一枚の差が効きます。
このほかに、リモートレリーズ(バルブ用)、予備バッテリー、レンズを拭く布、そして足元を照らす小さなライトがあると安心です。長時間露光でセンサーが熱を持つと熱ノイズが出るので、連続撮影の合間に少し休ませるのも効きます。減光のためのNDフィルターは、明るい打ち上げ場所で長く開けたいときに使う手ですが、花火では絞りで足りることがほとんどです。
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撮る前に、ひとつだけ
花火大会は、写真のための行事ではありません。長岡の花火は、1945年8月1日の空襲の慰霊と、そこから立ち直ってきた時間への感謝として上がっています。三脚の足は通路に出さない、前の人の視界をふさがない、終わったらごみを持って帰る。当たり前のことですが、暗くて熱狂している場所ほど守りにくい。撮る側がそこを外すと、次の年に規制が増えます。
会場の詳細、開催日、アクセス、有料観覧席については、長岡まつり大花火大会の撮影地ガイドにまとめています。
この記事の作例2点は、実際に販売しているプリントです。紅の夜、ひとすじの光は画面のすみずみまでが作品の呼吸なので、3:2をほとんど切らずに刷れる六切ワイドのみでご用意しています。飾るときの額は六切ワイドに合う額縁からお選びいただけます。
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