撮影地ガイド
富津岬の展望塔 ― 五葉松のかたちと、冬の夕空
東京湾へ細く突き出した、富津岬。その先端に、ふしぎなかたちの建物が立っています。五葉松をかたどったという明治百年記念展望塔。階段が幾重にも折り返し、まるで立体迷路のようです。夕暮れ、その骨組みが逆光に沈んで黒い幾何学になるとき、湾の向こうにもうひとつのシルエットが浮かびます。富士山です。
幾何学が、夕空に黒く立ちあがる
富津岬の展望塔は、写真に撮ると建築物というより彫刻に見えます。千葉県の案内によれば、五葉松をかたどった展望塔で、フロアーが三十六枚(七メートル四方)重なり、最上階の高さは二十一・八メートル。階段が折り返しながら上へ上へと積まれていく姿は、まさに立体迷路です。その骨組みが、藤色から薔薇色へと移ろう黄昏の空を背に、まっすぐな影絵になる。コンクリートの幾何学が、これほど詩的に見える時間はほかにありません。
そして、その向こう。東京湾を挟んだはるか遠くに、富士山が静かに立っています。手前は人がつくった直線と角、奥は誰もつくらなかった山のかたち。写真の中でその二つが釣り合った瞬間に、シャッターを切りました。手をつないで歩いていく人影が画面の隅に入ったのは、偶然です。けれど、その偶然が入ったことで、この一枚はただの絶景写真ではなくなりました。
首都を見張っていた海の記憶
千葉県の資料によると、富津公園は戦後、軍用地であった大部分を国から県が払い下げを受け、昭和二十六年に都市計画決定、明治百年記念公園として国の指定を受けて、昭和四十一年に県内初の広域公園として開設されました。展望塔は、その明治百年記念公園の指定にともなって建てられた記念の塔です。最上段からは東京湾や対岸、房総丘陵を一望でき、明治から大正にかけて首都防衛のために築かれた第一海堡・第二海堡も見わたせます。
海の上に人工の島を築いてまで首都を守ろうとした時代の記憶が、いまは静かな夕景の一部になっている。そのことを知ってから眺めると、同じ海がすこし違って見えました。
人がつくった直線の先に、
誰もつくらなかった山。
訪れる方へ ― 見頃
空気の乾いた冬の夕暮れが、いちばんの好機です。
千葉県の案内では、空気の澄んだ日には富士山をくっきりと観ることができ、夕景も人気の場所だとされています。富津市も、この場所が「関東の富士見百景」に選ばれていることを紹介しています。富士が見えるかどうかは、その日の空気しだい。よく晴れて風の落ち着いた冬の日を選んでお出かけください。
なお展望塔は、二〇二二年十一月から二〇二三年三月末まで補修工事のため全面立入禁止となり、二〇二三年三月三十日に利用が再開されています。その後も頂上部の階段修繕などで一時的に立ち入りが制限されたことがありました。長い距離を移動して訪ねる場所ですので、出かける前に千葉県立富津公園の公式サイトで最新のお知らせをご確認いただくと安心です。
アクセス
富津市の案内では、車の場合は館山自動車道の木更津南ICから国道十六号線を直進し、県道二五五号線を岬の先端へ向かっておよそ二十分。駐車場は富津公園第3駐車場(乗用車百台・大型なし)が案内されています。鉄道の場合は、JR内房線の青堀駅で下車し、富津公園行きのバスを利用します。バスの降車地点と徒歩の所要時間は資料によって案内が異なりますので、当日の経路は富津市や公園の公式案内でお確かめください。
ひとつ注意点として、千葉県立富津公園ではドローン(ラジコンヘリを含む)の使用ができません。空撮を考えている方はご注意ください。
撮影のヒント
この場所の主役は逆光です。展望塔を黒いシルエットとして立たせたいなら、空のいちばん明るいところを基準に、思いきって暗めに振ります。階段や手すりの細い線が抜けるので、絞りを開けすぎないほうが骨組みの輪郭が残ります。富士を画面に入れるときは、展望塔と重ならない位置を探して横に歩いてください。数メートルの移動で、遠い山の立ち方がまるで変わります。
日が落ちたあとも、すぐには帰らないこと。空が藤色から薔薇色へ、やがて藍へと沈んでいく十数分が、いちばん色の深い時間です。冬の岬は風が強く、体感温度がぐっと下がります。防寒と、三脚を押さえる手をひとつ空けておくことを忘れずに。
あわせて巡りたい
同じ東京湾岸でも、夕景の表情は場所ごとに違います。南房総まで下れば、海へ延びる木の桟橋の先に富士が立つ原岡桟橋。北へ戻れば、海へ九十メートル延びるウッドデッキが薄暮に灯る稲毛海浜公園。岬の展望塔から見おろす広い湾と、水面のすぐ上から見上げる湾とでは、同じ夕陽がまるで別のものに見えます。一日で二か所を回るのは移動が大変ですが、季節をずらして通うと、東京湾という海の奥行きが少しずつ見えてきます。
黄昏の空に黒く立つ展望塔と、その向こうの富士。この一枚をFUJICOLOR最高級印画紙への銀塩プリントでお届けします。額装してお部屋へ、世界中へ発送いたします。
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