撮影術
冬の風景写真の撮り方 ― 冬の花、夕景、早咲きの桜
冬は花が少なく、日も短い季節です。それでも、この時期にしか撮れないものがあります。藁囲いの中の冬ぼたん、海辺の斜面の水仙、真冬に咲かせたチューリップ、空気の澄んだ日の夕景と富士、そして1月下旬から咲きはじめる早咲きの桜。この記事では、被写体ごとの撮り方を、販売中の作品の撮影設定とあわせてまとめます。
冬の光 ― 低い太陽と、早く来る夕方
冬は太陽が一日じゅう低いところを通ります。昼でも光が斜めから入り、影が長く伸びるので、花びらの起伏や水面の細かな波がよく見えます。夏なら朝夕にしか得られない角度の光が、冬は昼前後にも続きます。
そのかわり、夕方は早く来ます。この記事の夕景の作例は、撮影時刻がどれも16時台から17時過ぎです。丸の内の東京タワーは12月12日の16:16、原岡桟橋は1月11日の16:21、富津岬は12月28日の16:40、稲毛海浜公園は1月15日の17:11。夕景をねらう日は、明るいうちに着いて、立ち位置と構図を先に決めておくと、いちばん色の濃い時間を撮り逃しません。
冬の夕景には、富士山が加わることがあります。富津市観光協会は、富津岬の展望塔について「冬場の空気の澄んだ時には、富士山がくっきり見ることができます」と案内しています。ただし、いつでも見えるわけではありません。出かける前に、遠くまで見通せる澄んだ日かどうかを確かめておきます。
この撮り方で撮った撮影地
同じ道具・同じ設定で、実際にこの撮り方を使って撮った記事です。
あわせて読みたい ― 撮影術と機材
同じ道具と、同じ光の話。続けて読むと、撮り方がつながります。
冬の花を撮る
冬ぼたん ― 藁囲いごと撮る
上野東照宮ぼたん苑の冬ぼたんは、霜よけの藁囲い「わらぼっち」の中で咲きます。花だけを切り取るより、藁の質感と花びらを一枚に収める寄りの構図が、冬の花らしさを伝えます。背景に社殿や石灯籠をぼかして添えると、ここが都心の社であることも伝わります。
作例のわらぼっちの冬牡丹は、藁の隙間から差した光が光条になり、花の下に小さな虹色の玉が落ちています。藁を抜けてくる光を画面に入れると、オールドレンズではこうした光条やゴーストが出ることがあります。出したくなければ、手やフードで光をさえぎります。
水仙 ― 白い花を飛ばさない
白い花は、カメラ任せの露出だと明るく写りすぎて、花びらの筋や重なりが消えてしまいます。露出補正をマイナス側に振り、ヒストグラムの右端に山が張りつかないところで止めると、白の階調が残ります。晴れた日の水仙は特に飛びやすいので、曇りや薄日の日のほうが扱いやすい被写体です。
群生地では、全体を広く写すより、手前の一輪を決めて奥の群れをぼかすと、奥行きが出ます。作例の鋸南町水仙まつりは、枯れ草越しに一輪だけを拾い、前も後ろももやのようににじませています。晴れた昼に絞りを開けて撮るとシャッター速度はかなり速くなり、この作品も1/4000秒です。カメラの最高速を超えそうなときは、ISO を下げきるか、ND フィルターで光を減らします。
アイスチューリップ ― 低い位置から、色を溶かす
チューリップの畑を立ったまま見下ろして撮ると、地面ばかりが写りがちです。しゃがんで花の高さまでカメラを下ろすと、花びらが重なって色の帯になり、背景には冬の空や木立が入ります。朝のうちは花や地面に霜が残ることがあり、真冬に咲いていることが写真から伝わります。
作例のアイスチューリップ畑は、HELIOS-44-2 を開放の F2 で使い、手前も奥も色の帯として溶かしたものです。ピントの合う範囲がごく薄いので、花びらの縁など一か所に合わせたら、あとは色の配置だけを見て構図を決めます。
冬の夕景と富士
シルエットで撮る ― 富津岬の展望塔
夕景の逆光では、地上のものを黒いシルエットとして立たせると、空の色がいちばんきれいに残ります。露出は空のいちばん明るいところを基準にして、思いきって暗めにします。作例の富津岬の夕景は f/22 まで絞り、展望塔の階段や手すりの細い線と、東京湾の向こうの富士を残しています。絞り込むほど細部はわずかに甘くなるので、線の硬さが要らない場面では f/8〜f/11 あたりから試すとよいでしょう。
この作品のシャッター速度は1/2秒です。手持ちではぶれやすい長さなので、日没前後は三脚か、しっかりした台を使える場所かを先に確かめておきます。富士を画面に入れるときは、塔と山が重ならない位置を探して横に歩きます。数メートル動くだけで、山の立ち方が変わります。
太陽を画面に入れる ― 原岡桟橋
沈む太陽そのものを画面に入れると、空と海の明るさの差がさらに大きくなります。作例の原岡桟橋の夕陽は1/8000秒・ISO100。太陽が入ると画面全体は暗く写り、明るいところだけが残ります。この作品でも、波打ち際が金色に縁取られています。画面に広がる光の膜と丸いゴーストは、フレアを隠さないオールドレンズで逆光を正面から受けた結果です。
同じ場所でも、太陽を画面から外して空の色だけを撮れば、明るさの差は小さくなります。太陽を入れるか外すかで、露出の決め方がまったく変わると覚えておくと、現場で迷いません。
長秒で海をならす ― 稲毛海浜公園
日が沈んだあとの薄暮は、空の色がもっとも深くなる時間です。光が足りなくなるぶん、長い露光で水面をならせます。作例の稲毛海浜公園の夕景は30秒・ISO100で、波が絹のように均され、ライトアップされたウッドデッキの橙と空の藤色が水面に溶けています。
30秒の露光には三脚が要り、シャッターはレリーズかセルフタイマーで切ります。ホワイトバランスは、空の藤色を基準にして、デッキの灯りが少し暖かく残るあたりで止めるとまとまります。明るいうちから長秒にしたいときは ND フィルターを使います。長秒と三脚の基本は三脚と、夜の撮影にまとめています。
望遠で引き寄せる ― 丸の内の東京タワー
都心の夕景では、望遠で手前のビルと遠くの塔を圧縮すると、ビルの谷間に塔が立つ密度のある画になります。作例の丸の内から望む東京タワー夕景は70mm・f/11・1/100秒・ISO100。空がまだ明るい時間で、1/100秒は手持ちでも止めやすい速さです。暗くなるにつれて、空とビルの明るさの差は広がります。
夕空の明るさの差を、撮る段階で抑える道具に、ハーフ ND(GND)フィルターがあります。使いどころはマルミ M100 角型フィルターシステムのレビューに書きました。
早咲きの桜と梅
熱海のあたみ桜は、例年1月下旬から2月上旬が見頃です(熱海市)。そのあと2月から3月にかけて、河津桜と梅が続きます。春の桜と違うのは、光がまだ冬のままだということです。日の出も日の入りも早く、斜めの光が長く続きます。
作例のあたみ桜の日の出は、1月29日の6:53、日の出の光に桜が染まる短い時間に撮っています(1/160秒・ISO100)。朝の光は数分で色が変わるので、空が明るくなりはじめる前に着いて待ちます。
同じ河津桜でも、設定で写り方は大きく変わります。河津町の河津桜の流麗は f/22・1/6秒のスローシャッターで、風に揺れる花房を流した一枚です。いっぽう旭市の岩井の堰の河津桜は f/2.8・1/500秒と、速いシャッターで撮っています。風のある日は、止めるか流すかを先に決めると、シャッター速度が決まります。
梅は桜より枝が込み入っているので、背景の整理がいちばんの課題です。水戸の偕楽園の紅白梅は f/10 で、一本の老木に重なる白・薄紅・濃紅を、青空と松の緑を背にまとめています。
冬の、六枚
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寒さと機材の扱い
バッテリーは、温度が下がると使える容量が減ります。ニコンは Z f の使用説明書で、低温時にはフル充電したバッテリーを使い、保温した予備を用意して暖めながら交互に使うよう案内しています。冷えて一時的に使えなくなったバッテリーも、常温に戻ると使えることがあります。予備は上着の内ポケットなど、体温で温まる場所に入れておきます。
結露は、冷えたカメラを暖かい室内や車内へそのまま持ち込んだときに起きます。同じ説明書は、温度差のある場所へ移るときは、カメラをバッグやポリエチレン袋に入れて密閉し、周囲の温度になじんでから取り出すよう書いています。撮影を終えたら、建物に入る前にカメラをバッグにしまう、と決めておくと忘れません。
手と三脚。指先が冷えると、三脚の脚のロックやダイヤルの操作が雑になります。薄手の手袋をしたまま操作できるか、出かける前に家で試しておくと安心です。冬の岬や海辺は風が強いので、三脚を押さえる手をひとつ空けておきます。
冬の早朝や日没後の水辺は、思っている以上に体が冷えます。撮影に夢中になると寒さに気づくのが遅れるので、防寒は一枚多めに用意し、凍った路面や暗くなってからの足元に気をつけてください。体が冷えきったと感じたら、無理をせず撮影を切り上げることも大切です。夜明け前の撮影の準備は朝もやとマジックアワーの撮り方にも書いています。
冬の撮影地 ― 12か所のガイド
この記事の作例を撮った場所を中心に、東京から日帰りで行ける冬の撮影地を、季節の順にまとめています。見頃・行き方・料金は各ガイドでご確認ください。一覧で見くらべるなら冬の撮影スポット12選へ。
よくある質問(撮影する人向け)
冬の夕景の作例は、どんな設定で撮っていますか?
カメラの撮影記録では、富津岬の夕景は2025年12月28日16時40分の撮影で、29.5mm・f/22・1/2秒・ISO100です。稲毛海浜公園の夕景は2026年1月15日17時11分の撮影で、30秒・ISO100です(レンズと絞りは記録に残っていません)。
(作例の撮影記録より)
冬の夕景で富士山を入れるには、どんな日を選べばいいですか?
空気の澄んだ日です。富津市観光協会は、富津岬の明治百年記念展望塔について「冬場の空気の澄んだ時には、富士山がくっきり見ることができます」と案内しています。いつでも見えるわけではないので、出かける前に遠くまで見通せる日かどうかを確かめてください。
出典:富津市観光協会「明治百年記念展望塔」(2026年11月4日確認)
寒いとバッテリーの減りが早いのはなぜですか?
一般的な電池の特性として、温度が下がると使える容量が少なくなるためです。ニコンは Z f の使用説明書で、低温時にはフル充電したバッテリーを使い、保温した予備を用意して暖めながら交互に使うよう案内しています。低温で一時的に使えなくなったバッテリーも、常温に戻ると使えることがあります。
出典:ニコン「Z f 使用説明書 カメラとバッテリーの使用上のご注意」(2026年11月4日確認)
冷えたカメラを暖かい部屋に持ち込むときは、どうすればいいですか?
寒い場所から暖かい場所へ持ち込むと、カメラの内外に水滴がついて故障の原因になります。ニコンは、温度差のある場所へ移る前にカメラをバッグやポリエチレン袋などに入れて密閉し、周囲の温度になじんでから取り出すよう案内しています。
出典:ニコン「Z f 使用説明書 カメラとバッテリーの使用上のご注意」(2026年11月4日確認)
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黄昏の空に黒く立つ展望塔と、東京湾の向こうの富士。この記事の作例は、どれもFUJICOLOR最高級印画紙への銀塩プリントでお届けしています。
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