撮影地ガイド
花と紅葉の見頃カレンダー ― 月ごとにたどる、日本の一年
花には、それぞれの二週間があります。撮りに行けるのは、たいてい一年に一度きり。だからこの一年、実際に足を運んだ撮影地を、月ごとに並べ直しました。一月の氷柱から十二月のイチョウまで、どの月に、どこで、何が見頃を迎えるのか。各月から、その撮影地のガイドと、その季節の作品へそのまま行けるようにしてあります。見頃は年の気候で前後しますので、出かける前に必ず現地の公式情報をご確認ください。
冬 ― 一月・二月
いちばん花の少ない季節ですが、逆にいえば、いま撮れるものが限られている分だけ迷いません。上野東照宮ぼたん苑の冬ぼたんは、藁で編んだ「わらぼっち」に守られて、雪の日にこそ絵になります。奥秩父の三十槌では、渓谷の岩肌から染み出した水が凍り、氷柱の壁になります。房総半島の斜面では、海風のなかで水仙が咲きそろい、二月に入れば熱海の早咲き桜と偕楽園の梅が続きます。寒い日の朝ほど、空気が澄んで光がまっすぐ届きます。
1月 ― 藁囲いの冬牡丹と、渓谷の氷柱
2月 ― 水仙、梅、そして日本でいちばん早い桜
春 ― 三月・四月・五月
三月は、川辺の河津桜から始まって、枝垂れ桜と夜桜へ移っていきます。四月は吉野山。下千本から中千本へ、山ぜんたいが淡く煙るように咲き、同じころ茨城と東京ではネモフィラの丘が空の色に染まります。五月になると、新座のなんじゃもんじゃが一夜で白い雪をかぶったようになり、秩父の高原や小貝川の河川敷ではポピーが風に揺れます。桜のあと、花はいっきに賑やかになります。
3月 ― 川辺の河津桜から、枝垂れと夜桜へ
4月 ― 吉野の一目千本と、青いネモフィラの丘
5月 ― 白い奇跡と、天空のポピー
花には、それぞれの二週間がある。
だから一年は、思っているよりずっと短い。
夏 ― 六月・七月・八月
六月は雨の日を待つ月です。北鎌倉・明月院の石段は、しっとり濡れているときがいちばん青く見えます。七月は早起きの月。不忍池の蓮は午前七時から九時ごろに開き、昼には閉じてしまいます。明野のひまわりは逆光で撮ると、花びらが光を透かして黄金色に変わります。八月には、長岡の夜空に正三尺玉が上がります。救急の当直明けに新幹線へ乗って、河川敷で三脚を立てた夜のことは、いまでもよく覚えています。
6月 ― 雨の日がいちばん美しい、あじさいの月
7月 ― 早朝の蓮と、逆光のひまわり
8月 ― 信濃川の夜空と、夕映えのひまわり畑
秋 ― 九月・十月・十一月・十二月
九月、千葉の雑木林で曼珠沙華が燃え、奥日光の高原ではもう草紅葉が始まっています。十月は紅葉が標高を降りてくる月で、六方沢や半月山、明智平と、日ごとに撮る場所が下がっていきます。十一月は京都。東福寺の通天橋、瑠璃光院の机もみじ、祐斎亭の丸窓。そして十二月、東京駅前の行幸通りが金色に変わるころ、一年がまた閉じていきます。この時期の京都と日光の十六スポットは、新刊にまとめました。
9月 ― 彼岸花が咲き、高原では草紅葉が始まる
10月 ― 紅葉が、標高を降りてくる
11月 ― 京都の名刹と、富士の湖畔
12月 ― イチョウの金と、いちばん澄んだ夕景
訪れる方へ ― 見頃
この表の日付は「例年の目安」です。
ここに書いた見頃は、各撮影地ガイドに載せている例年の目安をそのまま並べたものです。実際にはその年の気温と雨で前後し、とくに桜と紅葉は一週間ほど動くことがあります。花の名所は開花状況を毎日更新している公式サイトを持っていることが多いので、出発の前日にもう一度見ておくと安心です。入園料・開園時間・ライトアップの期間も年ごとに変わります。私も、前日の夜に公式の開花情報を見てから行き先を決めることがよくあります。
アクセス
ここに並べた撮影地の多くは、東京から日帰りで行ける範囲にあります。電車だけで行けるのは、上野・浜離宮・六義園・千鳥ヶ淵・旧中川・行幸通り・昭和記念公園、そしてひたち海浜公園と明月院。車があると楽なのは、奥日光(戦場ヶ原・半月山・六方沢)、秩父の高原、小貝川の河川敷、房総の水仙と夕景の海岸です。京都と吉野山、長岡と福井は、前泊すると朝の光に間に合います。各撮影地の詳しいアクセスは、それぞれのガイドに書きました。
撮影のヒント
見頃の「はじめ」と「終わり」は、意外なほど絵が変わります。桜は満開の翌週の花筏、紅葉は散りぎわの絨毯、イチョウは落葉後の金の路面。ピークを外した日でも、撮るものは必ずあります。朝夕のやわらかい光は年間を通していちばん頼りになりますし、雨上がりは花も葉も色が濃くなります。混雑する名所ほど、開園直後の三十分が勝負です。撮り方のくわしいところは、花風景と紅葉の記事にまとめてあります。
あわせて巡りたい
同じ場所でも、季節を変えて訪ねると別の顔に出会えます。ひたち海浜公園の「みはらしの丘」は春の青いネモフィラ、夏のジニア、秋のコキア。上野東照宮ぼたん苑は冬ぼたん、春ぼたん、秋のダリア。昭和記念公園は春のネモフィラ、夏と秋のコスモス、そして十一月のイチョウ。一年で三度、四度と通える場所を持っておくと、季節の移ろいがそのまま作品になります。
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